「はてなどう」「ナラカ」「円環伝承」共用。書き手は ちゃすかとすわさきの二人。
ナガミヒナゲシ

長実雛罌粟/長実雛芥子[ナガミヒナゲシ] Papaver dubium

ケシ科ケシ属の一年草。草丈30~60cm、花径3~6cm。花期は春。
地中海~中央原産の帰化植物で、日本で帰化が確認されたのは1961年の東京都世田谷区。かなり最近ですね。今は日本各地の都市部に広がっているとされます。実際、とてもよく見かけます。
アルカリ性の土壌を好み、コンクリートでアルカリ化した路傍に繁茂。抜いても抜いても根絶できず、雑草として相当に厄介だとみなされています。

ずっと、もっと大きな園芸種のケシが野生化して栄養不足で小さくなっちゃってるんだと思ってたんですが、こういう種類の花だったんですね。
雛罌粟[ヒナゲシ]より小ぶりの花は華やかさこそ足りませんが、ミニチュアを愛でるような独特の魅力があります。

ナガミヒナゲシの実名の由来は、実(罌粟坊主/シーズヘッド)の形が2cmくらいで細長いことから。英名も同じ「Long-headed poppy」。
花が枯れた後、このケシ坊主の蓋部分が浮いて、種が出る隙間が開きます。(右の写真、矢印で示したところ。)
中には細かい種が千粒以上もザラザラ入っており、隙間からこぼれ落ちます。



ナガミヒナゲシの花言葉
心の平静、慰め、癒し

ケシの仲間には、ご存知のように阿片[あへん]を生みだすものがありますが、これにはその成分がありません。
しかしこの花言葉は、阿片のもたらす鎮痛・鎮静効果をイメージしている気がします。



ヒナゲシ

雛罌粟/雛芥子[ヒナゲシ] Papaver rhoeas
別名:虞美人草[グビジンソウ]、野原雛罌粟/野原雛芥子[ノハラヒナゲシ]、シャーレイポピー、コクリコ

ケシ科ケシ属の一年草。草丈40~70cm、花径5~7cm。花期は春。
ヨーロッパ中部原産の帰化植物で、日本には江戸時代の宝永年間(1704-1711)に渡来しました。

本種の罌粟[ケシ]ヨリ小ぶりとは言え、花は大きく、鮮やかな色もあってよく目立ちます。
花色は赤、桃、白など。
赤いヒナゲシの花波には、与謝野晶子の短歌をイメージさせられます。

「ああ皐月[さつき] 仏蘭西[フランス]の野は火の色す
君も雛罌粟[コクリコ] われも雛罌粟[コクリコ]」


コクリコとはフランス語でヒナゲシのこと。

ヒナゲシの花と実

「ケシ」という和名は、中国名「芥子[カイシ]」が転訛したものだと言われます。
しかし、実は「芥子」はアブラナ科の「芥子菜[カラシナ]」のことで、本来はケシを指す名前ではありませんでした。
種子が似ていたために取り違えられ、室町時代中期以降には誤用が定着してしまったとか。
(日本語で小さなものを「芥子粒[けしつぶ]の様」と例えますが、これは仏典に由来し、本来は「カラシナの種」の意味。)
ケシの読みが当てられるもう一つの中国名「罌粟」は、実(ケシ坊主)が罌[かめ]に、種子が粟[アワ]に似ていることから。

別名「虞美人草」は中国の伝説に由来しています。
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秦代の末期、楚の項羽は漢の劉邦に追い詰められて垓下に立てこもっていた。
ある夜、包囲する漢軍から、むせび泣くような楚の歌が聞こえて来た。
この四面楚歌を聞いて、楚がすっかり侵略され人民が敵軍に徴収されているのだと思い込んだ項羽は絶望し、最後の宴の後に決死の敵中突破を行うことにする。

彼は愛妾の虞美人を伴っており、片時も放さないできたが、敵中突破に同行させるのは難しい。
女ならば命は取られまい。項羽は彼女を残していこうとした。
しかし虞美人は劉邦の元へ行くことを拒み、自刃して果ててしまった。

一説に、自刃した彼女の鮮血から赤い花が咲きだした。
また一説に、その年の夏、彼女を葬った場所から美しい赤い花が咲きだした。
土地の人々は彼女を偲び、その花を「虞美人草」と呼んだ。
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いわゆる「死体化成神話」の一種ですね。

近年よく挙げられる別名「シャーレイポピー」は、ヒナゲシの園芸品種の一つの名です。


これも阿片は採れませんので、安心して栽培できます。
とは言えアルカロイドを含み、ヨーロッパではケシより穏やかな効果の鎮痛・鎮静剤として用いられてきました。花を数輪煎じた液をワインに入れて飲むと痛みが軽減し、穏やかに眠れるそうです。
中国でも全草を薬とします。

ケシ属の鎮痛・鎮静作用はよく知られていました。
一説に、ケシ属を示す学名「Papaver[ペパベール]」は古代ケルト語の「pap(パン粥)」に由来し、粥にケシの搾り汁を混ぜて睡眠薬として用いたことに由来すると言います。

ただ、属名の由来には諸説あり、確定していません。
○ケシの花弁の薄さをパピルス(紙)に例えた
○ケシ坊主の乳汁(阿片の原料)から、ラテン語「pappa(食べ物、乳)」に由来
○種子を噛む音に由来
○古代アッシリア語でケシの乳汁を指す「aratpa-pal」に由来

古代エジプトでは、泣きやまない子供を寝かしつけるため、ケシの乳汁を蝿のフンに混ぜて(即ち、ごく少量)与えていたと言います。それ以降のエジプトからインド、ヨーロッパでも、泣く子供をなだめるために乳首にケシの乳汁を塗って吸わせることが行われていたとか。

このように日常で用いられてきたケシの効果は、様々な伝承にも現れています。
ギリシアの眠りの神ヒュプノスは宮殿にケシ畑を持ち、その汁をまき散らして人々を眠りに誘うと言われ、ケシの花を髪に挿すか手に持った姿で表されます。
また、娘ベルセポネを冥界王ハーデスに奪われた豊穣の女神デメテルが、眠ることすら忘れて悲痛のままに娘を探し続けた時、彼女がやつれると共に世界も衰亡してしまいました。ヒュプノスがケシを教え、この花の香りでデメテルは苦しみを忘れて安眠し、夢の中で冥界の底の娘と再会したと言います。
ヒュプノスは死の神タナトスの双子の兄弟でもあり、眠りと死は鏡像のようによく似たものでした。

このことからデメテルの象徴としてケシの花が添えられるようになったと言いますが、「ケシを持つ女神」の姿は古代アッシリアの昔から脈々と見られ、そのイメージを継承しているのだろうと思われます。


さて。
ケシ属の種子はポピーシードあるいはケシ胡麻と呼ばれ、香ばしく煎って食用とします。
阿片の取れるタイプのケシでも、種子には毒性はほぼ含まれませんので安心です。
日本ではあんぱんや松風焼き(鳥肉で作ったミートローフ)の飾りや、金平糖の核、七味唐辛子の素材の一つとして用いられています。プチプチした触感が美味しいですよね。
種子から搾った油は高価で、油絵の具を溶く描画油として用いられます。


ヨーロッパには、墓の中にポピーシードを入れておくと、死者の起き上がり(吸血鬼化)を防げるという言い伝えがありました。
死者は細かい種や結び目を数えずにはいられず、半永久的に数え続けるので()、墓から出てこられなくなると説明され、現代では何の植物の種でもいいということにすらなっているようですが、本来はケシの催眠効果をイメージしていたのではないでしょうか。
前述したように実際はポピーシードにその効果はありませんが、その本体たるケシには、死者の心残りすら忘却させ、安らかに眠らせる効果がある、と。

※死者は「永遠に終わらぬ無為な作業を続けている(変化も成長もしない、永遠の)存在」だというイメージは、世界中の伝承に見てとれます。底のないバケツで水を汲み続ける、縄や織物を作る端から動物に喰われたり解かれたりしている、岩を坂の上に押し上げては獄卒に転がり落とされる、河原の石を積み上げては獄卒に崩される、など。


ヒナゲシの花言葉
慰め、休息、いたわり、心の平静
感謝

白いヒナゲシの花言葉として「忘れっぽい」というものもあるとか。
いずれにせよ、ケシの鎮痛・鎮静作用をイメージした花言葉です。
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【2010/05/12 19:00】 | すわさき・その他
【タグ】 この花なんだ  
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