「はてなどう」「ナラカ」「円環伝承」共用。書き手は ちゃすかとすわさきの二人。
天南星[テンナンショウ]の仲間は世界におよそ150種、うち30種ほどが日本に自生しています。
似ているものが多く、特にマムシグサ系は分類が混乱していることもあり、素人目には判別がつき難くて悩ましいものです。

マムシグサ

蝮草[マムシグサ] Arisaema serratum
別名:蛇の杓子[クチナワノシャクシ]、蛇の大八[ヘビノダイハチ]、山蒟蒻[ヤマゴンニャク]

サトイモ科テンナンショウ属の多年草。草丈30~100cm。花は長さ8~10cmくらい。花期は4~5月。
多くの場合 枝(葉柄)が二本出て、それぞれに小葉が鳥足状に並んで7~17枚付いています。
花弁のように見えるのは仏炎苞[ぶつえんほう]と呼ばれる葉。これが包み込む棒状の花芯を肉穂花序[にくすいかじょ]と呼びます。水芭蕉やカラーと同じですね。
肉穂花序の上部は付属体と呼ばれ、本当の花はその下、仏炎苞に包まれた底に隠れています。

↓各部位の名称が判り易いように図を描いてみました。
マムシグサ図解

薄暗く湿った林内や路肩によく生えています。
スッと立った姿は蛇が鎌首をもたげたようでギョッとさせられますが、それ故の魅力もあるインパクトある花です。

↓紫花もあります。よく似た人吉天南星[ヒトヨシテンナンショウ]は仏炎苞に白条がありません。
マムシグサの紫花

一説に、紫花を「紫蝮草[ムラサキマムシグサ]」、緑花を「青蝮草[アオマムシグサ]と呼んで別種扱いします。
しかし別説では、紫花こそ「(狭義の)マムシグサ」であり、緑花の方は異種・「アオマムシグサ」とみなします。
分類は資料や人により違っていてハッキリしません。後述。


仏炎苞に白条があること、舷部は筒部より長く伸びないこと、付属体は先端に向けて緩やかに太くなった棍棒状であることが、花部分の基本的な特徴になります。

マムシグサの花


雌雄異株のこの花は、なかなか面白い特質を持っています。性転換するのです。
種子から芽吹いた最初の頃は花を付けることもできません。年を経て株が成長すると雄花を咲かせ始めます。それから更に年経て栄養を蓄えると、ついに雌花を咲かせるようになるのです。

↓仏炎苞の内部にある肉穂花序[にくすいかじょ]。上部は付属体と呼ばれ、その下に本当の花が隠れています。これは雄花です。
マムシグサの肉穂花序

小虫は花に引き寄せられて仏炎苞の中に入ります。ところが舷部が蓋のように覆いかぶさっている為、なかなか外に出られません。まさに「行きはよいよい帰りは怖い♪」ですね。

雄株の場合、仏炎苞の合わせ目の最下部がちょっとだけ開いており、虫はそこから脱出できます。ところが雌株にはそれがありません。そのため、多くの虫が雌株の仏炎苞の底で死んでしまいます。

あたかも食虫植物のようですが栄養を吸収するようなことはなく、あくまで受粉のためのシステムです。閉じ込められた虫がそれ以前に雄花に寄っていた場合、めでたく受粉して秋に真紅の実を付けます。


テンナンショウの実実の様子はトウモロコシのようだとよく言われますが、ちょっと万年青[オモト]の実にも似ているでしょうか。同じサトイモ科のカラー(オランダカイウ)の実にも似ています。
独特の迫力を持っていた花とは異なりますが、これはこれでまた、暗い山の中では目を引きます。

この実は汁気の多い液果。しかし有毒です。毒については後述。
小学生が食べて中毒を起こした事例があるので注意です。

実を付けて栄養を使い果たしたり、あるいは茎が折れるなどして弱ると、雌花を咲かせていた株でも翌年は雄花に戻ることがあります。


「マムシグサ」という名の由来には二つの説があります。
一つは、花の様子が「鎌首をもたげて舌を出したマムシ」を連想させるから。
もう一つは、偽茎部とそれを包む皮(鞘状葉)、時に葉柄にもある茶まだらの模様が、蝮[まむし]のそれを想起させるから。

マムシグサの茎のまだら模様


皮(鞘状葉)は成長に伴って剥けていきますが、多くの場合、皮の方が偽茎の地肌より「まむし風」の模様・色合いをしています。

初春にこの草が生え出て、まだ花も葉も無い頃。しっかり皮(鞘状葉)に包まれて直立した茎の様相は、まだら模様の笹たけのこと言うのか蛇模様の杖が突き立っていると言うのか。なんとも印象的。
中国での別名の一つに「斑杖」とあるのが、いかにもという感じです。

この模様はテンナンショウ属の幾種かに見られます。
ですから、これがあれば「(狭義の)マムシグサ」だと判断するのは早計です。
ただし、まだら模様のあるテンナンショウ属全てを、広義に「マムシグサ」と呼んでいいという考え方もあります。

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マムシグサは姿に変化の多い植物です。
↓例えば小葉の形にしても、これだけ個体差があります。
艶があったりなかったり、細かったり丸々していたり。波打っていたりいなかったり。鋸歯[きょし]が目立ったり目立たなかったり。斑[ふ]が入っていたりいなかったり。

マムシグサの葉いろいろ


これをどう考えるかは、研究者によって異なります。
あまりに細かい変化が多いので、全体でマムシグサとした方がいいとする人。
一つ一つ別種と考えて分類する人。
おかげで、この辺の分類はかなり混乱しているような……。

例えば。
緑花のマムシグサを「アオマムシグサ」とする説をと前述しましたが、やはり緑花のマムシグサが「関東蝮草[カントウマムシグサ]」としても分類されています。資料によっては同一のものとして扱われる。
ところがこれ、関東以東の分布ということになっている。関東以西にも緑花のマムシグサは分布しているのに。
一説によれば、関東に分布するものがカントウマムシグサ、四国や九州に分布するものがマムシグサなのだとか。生育地以外の違いは言及されません。

一方で、カントウマムシグサを「高麗天南星[コウライテンナンショウ] Arisaema peninsulae」と同一視する説もあります。
コウライテンナンショウは緑花だけでなく紫花も含むようです。
カントウマムシグサ=アオマムシグサ=(狭義の)緑花マムシグサなら、(狭義の)マムシグサ=コウライテンナンショウになるのでしょうか。

そしてコウライテンナンショウの分布は北海道~本州(近畿以北)となっており、これまた四国や九州には無いことになっているのでした。
ではコウライテンナンショウと四国・九州のマムシグサの違いは何なのか? これもはっきりしません。

資料によっては、コウライテンナンショウ=マムシグサで、北海道~九州に分布するとなっています。

なお、コウライテンナンショウは朝鮮半島や中国にも分布しています。

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さて。テンナンショウ属はサトイモ科なので、芋(球茎)が出来ます。(子芋は花後。)
しかしテンナンショウ属の葉や茎や芋には蓚酸[しゅうさんカルシウムが含まれているため、有毒で食べられない……と色んなところに書いてあるんですが、アクを抜けば食べられるようです。

中尾佐助『栽培植物と農耕の起源』(岩波新書)によれば、インドのシッキム州(ヒマラヤ南嶺)のレプチャ族は、天南星の一種(A. concinuum)の芋を、何度も煮こぼし水を換えながら茹でて食べていたそう。ネパールでは茹でた芋を干して粉にしたり、葉茎を乾燥させて保存野菜にしたりしていたとか。が、氏の所感によれば不味いものだそうです。

日本でも、例えば伊豆諸島の御蔵島[みくらじま]、八丈島では、島天南星[シマテンナンショウ](A. negishii)の芋を茹でてから皮を剥き、搗いて餅状にして、砂糖やきなこで食べていました。ヘンゴダマと呼ぶそうです。

アイヌもテンナンショウ属の芋を食べていました。
晩秋に実が赤くなってから、コウライテンナンショウ(アイヌ語では「ラウラウ」)の根を掘り、皮を削いで(有毒の黄色い部分を取り除いて)炉に入れて蒸し焼きにして食べたと。ジャガイモのように甘みがあり、長生きの元だと好んで食べる老人もいたそうです。しかし有毒部分が残っていると舌が痺れるので、食べることを忌避する人もいたとか。

北米の原住民も、テンナンショウ属の芋をアク抜き処理して食べていました。
皮を削ぎ、薄くスライスして半年干し、焙煎する。
出来たチップスをそのままかじるか、粉末にして穀物の粉と混ぜ、ココア風味(ほろ苦いということか?)のパンやビスケットを焼いたそうです。

生で食べると中毒すると戒められていましたが、メスクワキ族(フォックス族)が敢えて毒として使用した記録があるそうで。彼らの宿敵、主にスー族に食べさせるべく、みじん切りにしたテンナンショウの芋を混ぜた肉を置いておくのだそうです。敵は美味しくそれを食べますが、二、三時間後に死ぬほどの苦しみを味わったと。


テンナンショウ属はサトイモ科ですが、里芋の茎(ズイキ)も野菜扱いで店に売っていますよね。
けれど食べるときはよくよく茹でてお湯を換えてアクを抜かないとひどい目に遭います。
ええ、私は遭いましたとも。(^_^;)
里芋の皮剥きでは肌が痒くなったことなど無い私ですが、ズイキのアク抜き具合を味見したところ口から喉から細かい針の塊に刺されたようにピリピリピリピリして痛くて、長らく取れず、非常に辛かったです。赤ズイキは、水にさらしただけで酢の物にして食べられたのに。

このアクが蓚酸カルシウムで、テンナンショウ属が含む毒性と同じものです。

日本のズイキ(里芋の茎)は干して乾燥野菜にもしますが、これはネパールのテンナンショウ属の食べ方と同じですよね。ネパールではテンナンショウ属のイモを茹でて干して粉にして食べるとも言いますが、これはコンニャク芋と同じ処理法。コンニャクもサトイモ科で、芋には蓚酸カルシウムが含まれるので、そのままでは食べられません。


中国ではテンナンショウ属の芋は薬用にします。生薬名は「天南星」。
刻んで乾燥、時には更に焙煎したものを煎じて飲みます。去痰、或いは鎮痛作用があるとか。
生の芋はすり下ろして肌に塗り、腫れもの・肩こり・胸痛の薬としますが、かぶれることがあります。

アイヌでも、生芋を舌に触れぬよう呑んで虫下しにしたり、すり下ろして塗って皮膚病・虫刺され・打ち身などの腫れものの薬にしたり、干した実を腹痛や心臓病の薬としたそうです。

北米インディアンたちも生芋をすり下ろして腫れものに塗ったり、(乾燥したものを?)風邪薬や強壮剤として用いていたそうです。
また、幾つかの部族では女性たちが避妊薬として用いていました。
芋を乾燥し粉末にしたものを茶さじ一杯、冷水で飲む。そうすると一週間避妊できると。しかし茶さじ二杯をお湯で飲むと永久に不妊になると言われていたとか。飲み過ぎないよう毒性を警告していたのでしょう。

その他、北米原住民はテンナンショウの芋から採ったデンプンを衣服の繊維を硬く補強するために用いましたし、種子で病気治癒の占いも行いました。
実の一粒を、水を張った器に浮かべます。これが水面を時計回りに四回以上漂ったら患者は回復しますが、それ以下なら死ぬとされたそうです。毒草である故に生命に係わる呪力があると考えられたのでしょうか。


マムシグサの花言葉
壮大な美



次に、テンナンショウ属の別種を紹介。

ミツバテンナンショウ

三葉天南星[ミツバテンナンショウ] Arisaema ternatipartitum

サトイモ科テンナンショウ属の多年草。花期は4~5月。
やはり林に生えますが、マムシグサより奥深い山にある印象です。
枝を1~2本出し、その先に卵形の小葉を葉柄無しで三枚、まさに「三つ葉」の形に付けます。葉の縁にはギザギザがあります。
仏炎苞は紫褐色で10cm前後。舷部が丸く膨らんでいて口辺部(前側のめくれた部分)も大きく、ふっくらした印象。
草丈は12~30cmで、マムシグサよりずっと低いことが多いです。

ミツバテンナンショウ

以上、非常に特徴的な姿で、種類の同定が容易なテンナンショウです。
鞘状葉のマムシ風まだら模様は非常に薄くて、ほぼ見えません。

ミツバテンナンショウの肉穂花序肉穂花序[にくすいかじょ]は、マムシグサより付属体が細いですね。
やはり雌雄異株で、成長具合によって性転換します。写真は雄花です。



ミツバテンナンショウの花言葉は無いようです。




「天南星」という名は、中国名に由来します。
宋代の『開宝本草』(973年)で初めてこの名が確認できるそうで、およそ六百年後の明代、植物学者・李時珍がそれを引いて、「南星とは、根が円く白く形が老人星のようだから名付けた」と『本草綱目』に記しているとか。

南極老人星とは竜骨座のカノープスのことで、確かに、ヨーロッパの方で見るとシリウスに次いで明るく光る星ですが……。んんん? 中国から日本では緯度の関係で、南極老人星は低い位置に赤く見えるんじゃなかったですっけ。だから、その星の化身である寿老人は酔っぱらって赤ら顔とされる。
どうして白い芋から赤い星を連想するのか? 理屈が合わないような。

うーん。むしろ、鮮やかな赤い実を南星に見立てたとかでは。と思ってしまいましたが、どうなんでしょうね。それとも、薬用にするために干した根が丸くて褐色だからでしょうか?
芋に生えた根を老人の白ひげに見立てたのではという説もあるようです。これも厳しい。(テンナンショウの根はさほど細くなく、特に髭を連想させるものではないと思います。)


他方、全く異なる説もあります。星型に茂る小葉を星に見立てて「天南星」の名を付けたのだと。
これは判り易いですね。インド北部から中国、台湾に分布する最も基本的なテンナンショウ(Arisaema consanguineum 長行天南星)は、日本のテンナンショウ属で言うなら浦島草[ウラシマソウ]や広葉天南星[ヒロハテンナンショウ]のように、放射状に円く茂った葉を傘のごとく花の上に掲げた姿。まさに天に星を持っているのです。

台灣の天南星(Dobo's...)
このページの最後に紹介されているものが、長行天南星です。


マムシグサの花テンナンショウ属一般を指す英名は「Jack in the pulpit」です。(狭義には、学名「Arisaema triphyllum」のテンナンショウを指す。)
直訳すると「(教会の)説教壇のジャック」。
どういう由来なのかは判りませんが、大きな教会の説教壇には尖った天蓋がついていることがあるので、その下に立つ僧侶と、仏炎苞から覗く肉穂花序を重ねているのかもしれません。



最後に。
テンナンショウ属を示す学名「Arisaema [アリサエマ]」はギリシア語の「aris(サトイモ科の「arum[アルム]」)+haima(血)」に由来し、「血のような斑点を持つ植物」という意味になるそうですが、ヨーロッパで「Jack in the pulpit」と呼ばれるサトイモ科の植物「Arum maculatum [アルム・マクラーツム]」(和名「マムシアルム」)の葉や仏炎苞には、実際に紫色の斑点が散らばっています。
(ただし、テンナンショウ属ではなくアルム属に分類される。)
欧米ではアルムとテンナンショウは同一視されている部分があるようです。


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【2010/05/05 01:48】 | すわさき・その他
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