「はてなどう」「ナラカ」「円環伝承」共用。書き手は ちゃすかとすわさきの二人。
SHORT TWIST (プチフラワーコミックス)
SHORT TWIST (プチフラワーコミックス)
小学館 1988-11

おすすめ平均 star
starさすがは佐々木淳子先生、ひねりが半端ではない
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小学館の『プチフラワー』1988年6、7月号に掲載された、前後編120ページのSF漫画です。

浅川 操[みさお]は十六歳の女子高生。
背は高い方でスタイルがよく、長いストレートの黒髪を背まで伸ばした、かなりの美人。
勉強こそ平凡だが、剣道部の強豪で武芸に優れている。なにより、明るくきっぷのいい性格が魅力的だ。

理想の男性像は「白い王子様」。恐らく幼少期にTVか何かで観たのだろう。黒い悪魔から守ってくれる、髪も肌も白い青年のイメージが、彼女の脳裏にはずっと焼き付いているのだった。

さて。そんな操には一つだけ、奇妙な「癖」があった。時折、ぽんと記憶が飛んでしまうのだ。
家族は、それを冗談混じりに「とりっぷ」と呼んでいる。


「とりっぷ」の時間は、数分だったり数日だったりと定まらない。操の主観では、瞬間的に別の時間と場所にワープしているかのようだが、周囲の人間に聞けば、その間も普通に生活していたと言う。大抵は言動に変化なしだが、たまに いやに子供っぽくなったり、逆に賢くなっていることもあるとか。
実際、記憶が無くなっている間に受けた物理のテストは、普段の操とは打って変わって満点に近かった。

最近「とりっぷ」が頻繁になり、とうとう精神科の扉をくぐったが、多重人格の類いではないかとの推論が与えられただけで、解決法は分からなかった。

そんなある日、操は見知らぬ少年に親しげに話しかけられた。湯沢拓実[ゆざわ・たくみ]と名乗る彼は、操が「誰?」と戸惑うと「(僕のことが)わからない… そう…か するとこれが”出会い”…って事なのか…」などと意味不明なことを呟いている。
彼は日本人だが、髪も肌も色素が薄く、操が夢見る「白い王子様」のようだ。ただし、まだ十四歳で、操よりずっと体も小さかった。喘息持ちであまり体が丈夫ではない半面、大変な天才児で、既に幾つもの博士号を取った物理学者だという。

また同じ日、操は身体の大きな黒人青年・レニィと出会った。彼もまた操と知り合いの素振りで話しかけてくる。そのうえ、拓実の命を本気で狙っていた。咄嗟に得意の武芸や剣術で戦い、拓実を救う操なのだった。

やがて操は、拓実とレニィもまた「とりっぷ」を患う人間なのだと知る。
操の目の前で拓実はひどく大人びたり、五歳の幼児に退行したりした。

「とりっぷ」は、やはり多重人格なのか? そんな操の懸念は、すぐに吹き飛ばされた。
気が付くと操は社会人になっていた。七年も「とりっぷ」してしまったのだ。
今の操は第二電子シンクロトロン研究所に勤めており、湯沢拓実の助手であり、恋人でもあった。
成長した拓実は夢見た「白い王子様」そのもので、そのことにドギマギしつつも、七年分の青春が消えてしまったと嘆く操だったが、拓実は「戻れる」と言った。
「とりっぷ」は多重人格ではない。意識だけが自分の過去や未来に移動している現象なのだと。

ずっと昔から、拓実の部屋には「1988年5月26日に開けろ」と書かれた箱が置いてあった。それは操との出会いの翌日で、十四歳の拓実はその箱を開け、中にあった未来の自分が書いたメモで、「とりっぷ」の真実や、これから起こることを知ったのだと言う。

その言葉通り、それから操は過去や未来、自身の様々な時代に、意識のみの時間移動を繰り返すようになる。
もう壊された家。失われた風景。亡くなった祖母や可愛がっていたペット。それら失われたものと再び会える喜び。一方で、その時代に起きた大事故を未然に防ごうとしても、どうにもできない。

そしてレニィは、常に拓実の命を狙ってくる。
彼は操に問うた。1996年以降の自分に「とりっぷ」したことがあるかと。操も拓実も、レニィもその経験がなかった。これは何を意味するのか。彼は言う。自分たち三人にはそれ以降の未来がないのだと。

操はハッとした。以前、「とりっぷ」して奇妙な情景を見たことがあったのだ。どこかの施設で大きな装置が壊れていて、警告音と共に赤ランプが点滅し。黒い肌の人物と白い若者は無残な死体になっている。それらを見ながら、操自身も、潰された下半身の方からゆっくりと死んでいく……。
あれは、自分たちの死の間際の情景だったのか?

レニィは、自分たちの死は拓実の実験によって引き起こされると推測しており、それが自分たちの中の時の捻じれを作りだしたと断じた。死の運命を回避するために拓実を殺すのだと。
一方拓実は、時の捻じれを正し死の運命を回避するために研究と実験を行っていた。しかしレニィの言葉を聞いて以来、自分の実験が元凶ではないかとの恐れに取りつかれる。操を愛すれば愛するほど巻き込むことを恐れて突き放そうとする。
だが操はまっすぐに拓実を愛して決して離れず、彼をレニィから守り続けた。

過去と未来を挟みながら時はゆっくりと過ぎて行き、ついに1996年、予見されていた事故の日が訪れた。自衛隊機が墜落し、拓実が作り上げた新型加速機イゾルデを破壊したのだ。
修理に向かった拓実は、壊れかけたイゾルデに生体超微粒子が流れ込んでいることが、自分たちの内部に時間の歪みを生んだ原因だと見抜いた。その流入を止めれば歪みは消滅するはずだ。解決できるかもしれない!

ところが、一度は拓実に協力していたレニィが、土壇場になって呆然と呟いた。

「ダメ…だ」
「今になって…思い出…せた…」「この状態を…崩してはいけない…」
「操が見た…事故の通りにならなくてはいけない… 時の…ショート トゥイストを…修正しては…ダメ…だ」


死に物狂いの戦いの結果、操と拓実はレニィを出し抜き生体超微粒子の流入を停止。直後にイゾルデは爆発した。
瓦礫の中から拓実と操は互いを見つけ出す。自分たちは助かった。死の運命を回避して未来を手にした。時の捻じれから抜け出すことができたのだ。

一方、レニィは爆発をまともに受けて瀕死の状態になっていた。横たわった彼は皮肉に呟く。

「抜け出した…だって?」「フン…」
「確かに短い捩れ[ショートトゥイスト]はまぬがれただろうよ…」「しかし…ピンと伸びた一本の紐の小さな捩れをそのまま直したら…どうなると思う?」
「ゆるやかな…長い捩れが紐全体におよぶのさ…」「そう…ゆるやかな捩れ…ロング・ロング ロング トゥイスト」
「は! 覚醒が遅すぎたぜ! こうなる事を思い出せないでい…た…」


…いずれわかる…
不気味な言葉を残してレニィは息絶えた
でも…それ以降 わたし達は一度も不思議な体験をしなかった…
家庭を作り
子供が生まれ
若い頃のその思い出が薄れてゆき やがて幻想の中にただの夢として語られるようになっても
ついに…何も…何も起こらなかった…




操と拓実の物語はハッピーエンドを迎えました。
ところがページはまだ続き、突然、石器時代の原始人の姿が描写されます。
遥か太古の人物である彼は、意味は解らないと言いながらも「ロング トゥイストか…」と呟き、自分は生まれる前にずうっと明日に住んでいたと言います。
次は人類が宇宙に進出している遥かな未来。次は中世ヨーロッパ。再び遥かな未来。次は未来の果ての、人類が滅ぼうとしている時代。その次は古代エジプト。
様々な時代、過去や未来の様々な性別・年代の人間がランダムに断片的に描かれます。彼らはみんな口にしています。「ロングトゥイスト」とは何なのか、という疑問。そして自分なりの答えを。

ショート・トゥイストを修正することで生じたロング・トゥイスト。
この結末は非常に衝撃的で、同時に「???」と首を傾げてしまう部分もあるものです。
全ての生命の原点は一個の原子生物だった……という風にでも考えれば納得できるでしょうか。



この漫画の白眉は、何と言っても奇抜なSFアイディアだと思います。
ロング・トゥイストも衝撃的ですけども、中心になっている「とりっぷ」…精神内のタイムスリップというアイディアは、やはり面白い。斬新だとさえ思います。

ところで、これと全く同じアイディアを使った小説を読んだことがありました。
ただし、その小説が出版されたのはこの漫画が発表された七年後なのでした。
電撃文庫から出た、高橋京一郎の『タイムリープ あしたはきのう』です。実写映画化もされました。

Wikiを見ますと、作者はその小説の下敷きになった既存の小説や漫画を、『時をかける少女』を筆頭に六つも挙げているのですけれど、『SHORT TWIST』は入っていません。
つまり偶然に同じアイディアを考えついたということです。

『SHORT TWIST』巻末のあとがき漫画によると、佐々木淳子がこの「とりっぷ」のアイディアを思いついたのは1980年2月26日で、アイデアメモに書き記しておいたそれを1987年冬にまとめ直し、結末のアイディアを付け加えたのだそう。
こちらも、何か元ネタがあるわけではなくご自分で考えついたものだと、何の気負いもなく描かれてあります。


事実、ネタかぶりは特殊なことではありません。
どんなに奇抜なアイディア、文言だと思うものでも、誰かが思いついていることは本当にありますから。
それを、他ならぬ佐々木淳子自身が、最初の単行本『Who!』(東京三世社/1981)内にエッセイとして書き記しています。大変興味深い内容でしたので、以下引用させていただきます。

恐怖のワンモア
 高校の頃、太陽をはさんで地球の反対側に、もうひとつの地球があるというマンガを描いた。タイトルは「ワンモア」。
 無知な私は、これぞ新発見! 人の考えつかぬ盲点をついたアイディア! と有頂天になり、後で似たような話を見つけた時にはガク然となった。それも、その後あちこちで昔から使われているアイディアと知り、映画でも二つほど見つけ、パラレル・ワールドの設定の一つであるというSF解説を見てしまった時には、ショックを通りこしてアホくさくなってきた。”ワンモア”などというタイトルにして何という皮肉……。
 それ以来、自分の発見と思っていたアイディアが他の作品に見つかった場合は、それを”ワンモア”と呼ぶ事にしている。
 この恐怖の”ワンモア”は、私の場合、時々見つかる。似たようなアイディアを他の作品で見つけるたびに、あきずにショックを受け、しばらく落ち込んでしまい、今だに(ママ)免疫ができない。
(中略)
 SFマンガのおもしろさは、その50%近くはアイディアにあると思っていた。アイディアから創作意欲が生まれ、物語を作り出す……。しかしこういったアイディア中心の作品であるほど、”ワンモア”にぶち当たった時は、あっさりと色あせる。
”ワンモア”に、たびたびぶつかると、もしかしたら私は創作をしていたのではなく、誰ぞのアイディアを読む能力……予知かテレパシーか、そなわっているのかもしれぬと疑ってみたりする。こういう”ワンモア恐怖症”はおそらく創作する人の大半が一度ならず味わうものだと思うが、皆どのように立ち直っているのだろう。
 ある人に言わせれば、この世にもう創作などありえない。とうの昔にやり尽くされている。残るはバリエーションとキャラクターだ……という事だが、それを信じるのは少々むなしい。(中略)アイディアの空白地帯はまだまだ残っていると信じたい。
 へたなテッポも数撃ちゃ当たるらしい。いくつかは”ワンモア”をまぬがれるよう信じて、恐れずに描くしかない……のでしょうね。



文中、誰かのアイディアを知らないうちに超能力で感知してしまっているのかも……という感覚のアイディアは、藤子・F・不二雄がたびたび自身の漫画※で取り上げているので、これも面白いなと思いました。

※『耳太郎』『エスパー魔美』

やはり、奇抜なアイディアで創作する人は、多かれ少なかれ似たようなことを考えているのでしょうか。


実は、この文章を書きかけている途中に、同じく「精神内の時間跳躍」アイディアを使った、発表されたばかりの新作SFマンガを読みました。※

※『ハルカカナタで』臼井仁志(講談社『月刊アフタヌーン』NO.66 2010年04月24日(土)発売 前後編118P一挙掲載)

なんという偶然でしょうか。(^_^;)
これは、事故によるランダム発生ではなく、タイムマシンによるものですが。
話の大枠自体は、むしろ藤子・F・不二雄の『影男』に近いかもしれません。


きっと私が知らないだけで、精神内時間跳躍も「ワンモア」なんでしょうね。
類似のアイディアをどう個性的に味付けしていくか。
色々と並べてみる見方をするのも楽しいのかなと思いました。


関連記事
 漫画の感想【Who ! 】佐々木淳子
 漫画の感想【デカガール】長崎 尚志/芳崎せいむ



偶然と言えばもう一つ。
やはり記事を書いている途中、「デイリーポータルZ」で『SHORT TWIST』が取り上げられておりまして、オッと思いましたよ。着目点は全然違うところでしたけど。佐々木淳子は今、思っていたよりも注目されているのでしょうか。

吹き出しに句読点があるのは少年漫画だけ?(デイリーポータルZ)




追記
2011年3月末に新装版が出ました。
SHORT TWIST―佐々木淳子傑作選 (バーズコミックススペシャル)SHORT TWIST―佐々木淳子傑作選 (バーズコミックススペシャル)
(2011/03/25)
佐々木 淳子

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同時収録作は、旧版(プチフラワーコミックス)とは異なってます。
うち12Pの短編『のこされたこころ ケースB』は、商業誌未発表作とのこと。あとがき拝見するについ最近の作とのことですが、描き下ろし扱いにならないという事は、同人誌発表か何かでしょうか?? 巻末のデータに記載してくれればいいのに。
タイトルは作者の過去作「のこされたこころ」(レビュー)から取っているようですが、物語になりきれていないネタ剥き出し状態と言うか、説教みたいになっちゃってるので、色々考えさせられた過去作の面白さには及ばないかも。

自殺した少年が猫に生まれ変わる少女漫画系ファンタジーと言うと、星野架名のデビュー作『東京は夜の七時』を思い出しました。この漫画家さんも、センス・オブ・ワンダーな方でしたね。


巻末に8Pの描き下ろし『LONG TWIST』が収録されています。
なんと、『SHORT TWIST』の続編、と言うか後日談。
単行本編集さんに続編をと依頼されて描いたものだそうで、そんな無茶な依頼で実際描けたのが凄いし、内容も問題なく、少しも悪くない作品ですが。
個人的には、蛇足だったかなぁという気がしました。

物語には続編が読みたいものと、本編できっちり完結しているからこそよいものがあって。
私にとっては『SHORT TWIST』は後者でありました。

読後の余韻の味が、ほんのちょっとだけ変わってしまったかもしれません。
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【2010/05/05 21:45】 | すわさき・感想
【タグ】 漫画の感想  
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