「はてなどう」「ナラカ」「円環伝承」共用。書き手は ちゃすかとすわさきの二人。
春になるとあちこちに柔らかそうな緑のじゅうたんができます。普段はそれだけとしか思いませんが、よ~くよく見ると、そのじゅうたんには2~5mmほどの小さな小さな、けれど愛らしい花が咲いている。こんなに小さいのにこんなに精緻に! 気付くと魅入られます。

今回はそうした花のうち、白いものを幾つか、まとめて紹介します。






繁縷/繁蔞[ハコベ/ハコベラ]
別名:雛草[ヒヨコグサ]、雀草[スズメグサ]、朝白げ[アサシラゲ]、日出草

ナデシコ科ハコベ属の越年草。三月頃から九月頃まで咲き続けます。

辺りに普通に生えている野草。柔らかくてふかふかした茂みを作り、5~7mm程度の白くて小さな花を、散りばめた星のように咲かせます。とても可愛い。これを見ると、春になったなぁ~と感じます。
学名の「Stellaria media」は、ラテン語で「中くらいの星」と言う意味です。

「ひよこ草」の名でも知られますが、まさにニワトリまっしぐら。英語でも「chickweed(ニワトリ草)」と言います。ニワトリだけでなく人間も、古来からこの柔らかでみずみずしい栄養豊富な草を食べてきました。春の七草のひとつとして挙げられています。

花弁は実は五枚。しかし基部まで真っ二つに裂けているので、あたかも十枚のように見えます。
よ~く目を凝らせば、二つずつまとまったV型の花弁が五枚ある、ように見えるでしょうか。

ミドリハコベ一口にハコベと言っても種類が幾つかあります。

上の写真は、花と葉が小さめで茎が紫の小繁縷[コハコベ](Stellaria media)。

左写真、同様サイズの花と葉で茎が緑の緑繁縷[ミドリハコベ](Stellaria neglecta)。

コハコベとミドリハコベ、この二種を併せて「ハコベ」と呼ぶことが多いようです。


下の写真は牛繁縷[ウシハコベ](Stellaria aquatica)。
「牛」の名の通り花が大きく、1cmほどもある。花を支える萼片[がくへん]が花弁と同じくらいか、やや短い。
また、葉が茎を包むように円くたっぷりしています。
コハコベやミドリハコベよりやや遅く、五月頃から咲く印象があります。

ウシハコベ


生育環境によってはウシハコベの花もさほど大きくならないことがあるので、見分けに迷う事があるかもしれません。その場合は、柱頭(めしべの先)を見てください。

ウシハコベと普通のハコベの花の比較


柱頭が三つに分かれているのが普通のハコベ。対してウシハコベは五つに分かれています。


ハコベは生薬としては「繁縷[ハンロウ]」と呼び、よく揉んだものを塗ると火傷の薬になる、産後に食べると乳の出が良くなる等と言われました。また、乾燥させ煎じたハーブティーはお通じにいいそうです。
塩にハコベの汁を混ぜてよ~く炒ったものは「はこべ塩」と言い、指に付けて歯を擦り、歯磨き粉として用いました。ハコベの汁は歯痛や歯槽膿漏に効いたという話もあります。


名の由来は、「生い茂る草むら」という意味の「蔓延芽叢[ハビコリメムラ]」の転訛という説や、種が落ちるとその年のうちに芽が出て蔓延[はびこ]るから「ハコベ」だ、という説などがあります。

「繁縷」の字の方は漢名ですが、これは茎の中に白く硬い筋(縷)があることに因むそうです。

平安時代に書かれた、現存する日本最古の薬物辞典『本草和名[ホンゾウワミョウ]』に「波久倍良[ハクベラ]」の記述があり、これが転訛して「ハコベ/ハコベラ」になったとの説もありますが、ハクベラの「ハク」は「帛」のことで、即ち絹布であり、茎の中に白い筋があることに因むとの説があります。
だとすれば、和名「ハコベ」は、漢名の「繁縷」と同じ由来ということになりますね。

なお、「ハコベラ」の「ベラ」は「群がる」と言う意味らしく。「ハク」が「絹布のような白筋」の意味ならば、「ハコベラ/ハコベ」は群がる白筋……という意味になるでしょうか。

夜には花が閉じ、朝に開くので、「朝白げ」「日出草」の異名があると思われます。


ハコベの花言葉
愛らしい
デート(密会、ランデブー、私と逢っていただけますか)



さて。
そんなハコベによく似た春の花、そのいち。
ミミナグサ

耳菜草/苓[ミミナグサ] Cerastium holosteides var. hallaisanense
別名:鼠の耳[ネズミノミミ]、仏の耳[ホトケノミミ]

ナデシコ科ミミナグサ属の越年草。沖縄を除く日本全国、樺太、朝鮮半島、台湾、中国、インドに自生。
花期は春から梅雨。
草丈は10~30cmでハコベと同じくらい。
ハコベに比べると堅そうに見えますが、この草も食べられます。

ミミナグサの花全体に産毛が生え、茎や、葉や萼片[がくへん]の縁が濃く紫がかっています。
おかげで縁取りでもしたかのようなクッキリ感がありますね。
紫色の出方は個体差があり、茎や葉が真っ赤に見える程のものもあれば、写真のように縁だけが染まっているものもあります。

花径は8mmほど。
ハコベとは違って、花弁の先のほんのちょっとしか裂けていないため、無理なく五弁花に見えます。



平安時代の『枕草子』に、既にこの草の名前が出ています。

『枕草子』 七日の若菜を

七日の若菜を、人の六日にもてさわぎとりちらしなどするに、見も知らぬ草を子供の持てきたるを「何とか是をばいふ」といへど、頓[とみ]にもいはず。「いざ」など此彼[これかれ]見合せて、「みみな草となんいふ」といふ者のあれば、「うべなりけり、聞かぬ顏なるは」など笑ふに又をかしげなる菊の生ひたるを持てきたれば、

  詰[つ]めど なほ みみな草こそつれなけれ 数多[あまた]しあれば菊も混じれり

と言はま欲しけれど、聞き入るべくもあらず。



七日の若菜(正月七日の若草粥用の菜)を、人が六日に持って来て騒ぎ散らしなどしていた時。
見知らぬ草の、子供が持って来たのを(私が)「これは何て言うの」と訊いたけれど、すぐには答えない。「さあ」なんてあちらこちら顔を見合わせている。
「みみな草と言います」と言う者がいたので、「納得だわね。聞いてない顔なのも(みみな草を耳無草とみなし、すぐに質問に答えなかった様子を「耳が無いので聞こえなかったんだ」と皮肉っている)」等と笑っていると、(別の人が)可愛げな菊の生えていたのを持ってきたので、

  問い詰めても尚、みみな(耳無)草だからツレナイのね。数が多いから菊(聞く人)も混じっていたけれど

と言いたかったけれど、(この人たちが)理解できるはずもない。


清少納言はミミナグサと「耳無」の音をかけていますが、これは彼女の洒落っ気であって、実際にそういう意味で認識されていたわけではないようです。本人も「聞き入るべくもあらず」と書いてますし。

実際の名の由来は、ネズミの耳に似た形の葉の野菜だから「耳菜草」。
中国での別名の一つ「高脚鼠耳草」も同じ由来なんでしょうね。

中国での標準名は「巻耳」。この字は日本ではキク科のオナモミを指しますが、無関係ですね。
江戸時代の博物誌『本草綱目啓蒙』11の「巻耳」の項目に「巻耳とは ミミナグサ ネズミノミミ 備前 ホトケノミミ 能州」とあり、「鼠の耳」「仏の耳」という別名があったことが判ります。


次に、ミミナグサの近似種。
オランダミミナグサ

和蘭耳菜草[オランダミミナグサ] Cerastium glomeratum (C. viscosum)
別名:青耳菜草[アオミミナグサ]

オランダミミナグサの花ヨーロッパ原産で明治末期に渡来した帰化植物です。
近年は在来種のミミナグサを駆逐する勢いで増えています。
草丈は10~60cm、花期は春から梅雨。

在来種のミミナグサに比べると毛深く、そのおかげか全体的に色が薄く感じられます。
また、基本的には萼片や茎は緑色です。(しかし個体差があり、稀に茎や萼片の縁がうっすらと紫がかっているものもあります。)
結果として、ミミナグサより明るい黄緑色に見えます。
別名の「青耳菜草[アオミミナグサ]」はそこから来ているのでしょう。


ミミナグサとオランダミミナグサはよく似ていて、パッと見では区別がしづらいかもしれません。
先に挙げたような色や毛深さの差異は、例外も多く曖昧に感じられるものですし。

専門家は萼片と花柄[かへい]の長さの対比で見分けているそうです。

ミミナグサとオランダミミナグサの識別点

お判りでしょうか。
在来種のミミナグサは花柄がぐっと長い。萼片よりもずっと長いです。
対して、オランダミミナグサは花柄が短く、萼片と同じかやや短いくらいしかありません。

その他、
・オランダミミナグサは花がぎっしり固まって付くが、在来種は少ない傾向がある
・花弁の先の切れ込みが、オランダミミナグサは深いが、在来種は浅い傾向がある
という識別点を挙げる人もいます。


ミミナグサ晩春のミミナグサはあまり花が開いておらず、閉鎖花(つぼみのまま自家受粉する花)や実が増えて、別の草のように見えます。

ミミナグサの実はつぼみに似た尖った形で、種をまき散らした後は先端がギザギザと十裂します。
この尖った実を「角」に見立てて、ギリシャ語の「kerastes(角状の)」から学名「Cerastium」が付けられたと言われています。

中国での別名の一つが「婆婆指甲菜(姑の爪菜)」ですが、恐らくこれも同じ由来ではないでしょうか。尖った実を爪の尖った指先に見立てたわけですね。



ミミナグサの花言葉
純真、無邪気


ところで、ネット上にミミナグサの名の由来を「白い花弁の先が割れていてウサギの耳に似ているから」としているページが複数あって驚きました。
中国での別名「高脚鼠耳草」を見るにつけても、正解は「葉がネズミの耳に似ている」方で間違いないだろうとは思いますが、ウサギの方が現代人には好まれそうです。
いつか説が入れ替わってしまうことも有り得るのでしょうか。




ハコベによく似た春の花、そのに。


蚤の衾[ノミノフスマ] Stellaria alsine

ナデシコ科ハコベ属の越年草。草丈5~30cm。花期は春から秋。
少し湿り気のある土を好むよう。
ハコベ属ですが、葉や茎の感じはハコベとはかなり違っています。無毛ですし、地面に張り付いて横に広がっていき、立ち上がって繁茂することはありません。

ノミノフスマの花花はハコベと同じく、裂けているため十弁に見える五弁花ですが、花弁がやや細長くてピラッと反り返りがちに見えます。

花の大きさは環境でかなり異なり、5mm~1cmくらい。春に肥えた田んぼなどに咲いた花は、けっこう大きくて目立ちます。
ふかふかの緑の中、一面に白い花が咲く様には心浮き立たされます。


名前の由来は、小さな葉っぱを蚤の布団(衾[ふすま])に見立てたという、ユーモアと愛情に満ちたもの。

なお、中国では「雀舌草」と呼ぶそう。(厳密には、原種の「蚤の小衾」のことか?)葉っぱが雀の舌に似ている……のではなく、種の形に因むようです。
生薬としては、風邪、赤痢、捻挫等に効くとされています。


ノミノフスマの花言葉
いじらしい



ノミノツヅリ

蚤の綴[ノミノツヅリ] Arenaria serpyllifolia 

ナデシコ科ノミノツヅリ属の越年草。ハコベ属ではありません。
草丈10~25cm程度。花期は春。

日本全国はもとより、世界中で見られる雑草です。
ノミノフスマと名前は対のようですが、葉や花の感じは全く異なるので、見分けは容易でしょう。
基本的に、ノミノフスマより小型です。また、ノミノフスマが春から秋まで咲き続けるのに対し、ノミノツヅリは春にしか咲きません。
無毛のノミノフスマに対し、ノミノツヅリには全体に微かな毛があります。

ノミノツヅリの花花はごく小さく、2~5mmくらい。
(花だけを見るなら、次に紹介する爪草[ツメクサ]に似ています。)
素直な五弁花で、花弁は裂けていません。
萼片の方が花弁より長いです。


ノミノフスマが水田の傍などやや湿った場所を好むのに対し、こちらは乾いた場所に多く生えます。アスファルトの隙間にもよく生え、舗装された道路の傍で、か細くながら何株も茂って花を咲かせていたりします。
(しかし、湿った場所に生えたノミノツヅリの方が、乾いた場所に生えたものよりずっと大きい。環境的にはやはり、湿っている方がいいようです。)

綴[ツヅリ]とはツギハギのボロ服のこと。小さな葉をノミが着るボロ服に見立てたとされます。
ちなみに、中国でもノミノツヅリは「蚤綴」。


ノミノツヅリの花言葉
小さな愛情




最後に、ハコベよりずっとちっちゃいけど、よくよく見ると白い花が可憐な草。


爪草[ツメクサ] Sagina japonica
別名:鷹の爪[タカノツメ]、雛草[ヒヨコグサ]、雀草[スズメグサ]、螢草[ホタルグサ]、チリチリグサ、テンジンノツメ

ナデシコ科ツメクサ属の越年草。こちらもハコベ属ではない。
ハコベよりは繁茂しにくい感じで、地面に張り付くように広がります。湿った土が好きっぽい。

全体に小さいし、葉の感じが少し杉苔に似ているので、なんとなく、普通の草とは違うようなイメージを持ってしまいます。そんな草に白く愛らしい梅のような花が咲いた時の驚きと喜びは大きなものです。

ツメクサ

花はかなり小さく、ほんの2、3mmほどしかありません。
また、日の光が弱いと閉じてしまいます。

名の由来は、細く尖った葉を鳥の爪に見立ててのもの。葉っぱを俯瞰してじっと見ると鳥の足の先に見える……かなあ? うん……言われてみると見えるかも。小鳥の細い足ですね。葉っぱが指と爪で。

日本の他、朝鮮半島から中国、ヒマラヤまで分布。英語では「Japanese pearlwort(日本の真珠草)」、中国では「漆姑草」、別名は「爪槌草」と言います。



ツメクサの花言葉
小さな爪跡

なんだか粋な花言葉。
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【2010/04/21 19:00】 | すわさき・その他
【タグ】 この花なんだ  
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