「はてなどう」「ナラカ」「円環伝承」共用。書き手は ちゃすかとすわさきの二人。
鞄図書館<1>
鞄図書館<1>
東京創元社 2009-10-29
おすすめ平均 star
star買ってよかったと思える一冊
starジャケ買いでした
star図書館まるごと鞄の中に。ハートフルで乙な味わいの連作短篇集

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カバーに内容の説明がない。
帯に書かれた説明はイマイチ抽象的。
書評サイトでも絶賛はしてあるけれど、やはり具体的な内容が判らない。
うーん。どういう話なの……?

それが気になって仕方がなく、迷った末に手に取った漫画です。

帯にも書評サイトにもこの漫画家さんの代表作『金魚屋古書店』の名が書かれてあり、要はそれと同系統の、実在の本の紹介を絡めた人情話なのだろうということは想像できます。
一方で、表紙やタイトルから、オーソドックスなファンタジーではないかと想像もできる。
そして、この漫画家さんの作品はどれも一定の水準を保っていて、少なくとも「読んで損した」と思うことはないだろうとも推測できます。

ただ、この漫画家さんの作風には、堅実であると同時に地味な部分がある。
特に『金魚屋古書店』にそういう印象を抱いていたので、それと同系統らしいことに僅かな警戒心を抱いたのでした。

読んでみたところ、ストーリーは予想通り、「実在の本の紹介を絡めた人情話」でした。
ジャンル的には《童話》です。ただし、大人のための。
主人公である《鞄&司書》コンビの設定は明らかに童話のそれですが、彼らが関わるのは殆ど成人で、物語は《大人の視点》で進行しています。


東京創元社のミステリ小説専門隔月刊誌『ミステリーズ!』連載の短編連作漫画。毎回8~10ページで、一本一話完結が基本ですが、たまに前後編二本で一話を語っていることもあります。

彼らは現代ヨーロッパのどこかを歩き回っています。
濃い色の顎ひげをたくわえた、たくましい体格の中年男性。スーツにトレンチコートに中折れ帽という、いささか古風ないでたちの彼は、《司書》と呼ばれています。彼が手に提げたボストンバッグも、ファスナーではなく金具の止め口の、やや古風なもの。この《鞄》、なんと自我を持っており、自在に口をききます。歩き回ることこそできませんが、パチリと口を開けて中からお勧めの本を出すことだってできる。
そう。彼の中には世界のあらゆる本(失われた本や未出版の本、果ては架空の本まで)が収まっており、彼らは《鞄図書館》と呼ばれているのでした。

本を貸し出す方法は二つあります。
一つは前述の通り、《鞄》自身が口をパカリと開けて、目的の一冊を取り出す方法。
もう一つは、《司書》に命綱の端を持ってもらい、利用者自身が鞄の中の図書館に入る方法です。鞄の中は広大な異空間になっており、入る者のイメージによってデザインは変わるようです。イメージによって形作られた人間や動物も存在しています。
返却方法も二つあるようで、通常の図書館と同じように利用者が返しに行く場合と、返却日になると《鞄図書館》の方が(利用者がどこにいようとも)返却の督促に現れる場合があります。

基本的に、《鞄図書館》は田舎を巡る行商人的な存在のようです。
不定期に村外れの野原などに来て一日(もしくは数日?)陣取り、図書館を利用させて去っていく。
田舎では人気ですが、都会では忘れられつつあり、出会ったことのない人が大勢いる。
なお、外国人(日本人)には存在が知られていないらしい感じでした。

《司書》は普通の人間ではなく、何十年、もしかすると何百年も年取ることなく旅しているようです。何もない場所から巨大な貸し出し目録を取り出したり、なんと、時間を超えて過去に行ったりも平気で出来る。
ただし最初から《鞄》と一緒だった訳ではなく、あくまで仕事として現在の境遇になったとのこと。《鞄》の中に入る際には《司書》の命綱が必須ですが、《司書》自身も命綱を結んで外に置いた自分の帽子に結び付けています。そうしないと永遠に外に出られなくなるそうです。(《鞄》は、本は目的のものを自在に出せるのに、迷い込んだ人間は出せないらしい。)

《鞄》は、意外にも若く経験が浅いらしき描写がされています。世界中の《音》を鞄に収めて旅をしている(外見が)若い女性と会った時、《司書》は彼女と親交がある様子でしたし、実は彼女の方がずっとキャリアが長いことも知っていましたが、《鞄》は初対面で全く知りませんでした。
ちなみに《音》の女性の方がキャリアが長い理由(?)は、音楽は書物よりずっと先に生まれたものだからだそうですが、もし《鞄》がこの世に書物が生まれると同時に誕生した存在ならば、《司書》はそれよりずっと前から存在していた、ということになるのでしょうか。

神秘の塊のような彼らですが、《司書》は、この世に神秘なんてないと長旅で散々思い知らされた、と何度も言います。これは、この世界では《鞄図書館》が普通の存在だということなのか、それとも、自分自身が神秘的存在だと感覚がマヒしてしまうという皮肉なんでしょうか?


第一巻には十六のエピソードが収められています。
そのうち、私が特に面白かったと思った話は

六冊目…《音》を鞄に収めて旅している女性と邂逅する幻想的な話
十二冊目…ある不幸な境遇の少年が一冊の本に勇気づけられる。彼の生涯を《鞄図書館》が見守る人情的な話
十三冊目…ある殺人事件を《司書》が本に絡めて解決するミステリ的な話

です。
突出した部分があるとは個人的には思いませんが、読んで損することはないと思います。
Amazonのレビューを見ると、現時点でオール5ツ星の超高評価です。



ところで、読んでモヤッとした点が一つだけ。
第一話の段階から、《鞄》は日本に行こうと《司書》にねだっています。《司書》は気乗りせず断っていましたが、第四話になると暇だから行こうかと言い出す。第九話でついに日本行きの船に乗ります、が。第十話でトラブルを起こして下船。それきり、二度と日本行きの話は出ませんでした。
うーん。なんだったのさ。すごい肩すかしを喰らった気分。


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【2010/03/18 00:30】 | すわさき・感想
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