「はてなどう」「ナラカ」「円環伝承」共用。書き手は ちゃすかとすわさきの二人。
キララのキ 1 (クイーンズコミックスプレミアムシリーズ)キララのキ 1 (クイーンズコミックスプレミアムシリーズ)
(2004/08/19)
岩館 真理子

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'96~'98年に、集英社の女性漫画誌『YOUNG YOU』に不定期連載されていた漫画。
残念なことに、現時点では絶版になっているようである。

《母親》という檻の中で夢と現実を朦朧と入り混じらせつつ、過去の罪や因縁を解き明かしていく、ファンタジックミステリー。
現代日本を舞台にしているが、《母親と魔女》《動き出す人形、人形になった人間》《飛翔と落下》《眠りと目覚め》という、不思議で少し怖い、精神分析見地の西洋おとぎ話を思わせるようなモチーフが、効果的に散りばめられている。

『本当は恐ろしいグリム童話』系の話が好きな人は、かなり気に入るのではないだろうか。


《三人姉妹の話》
昔、森の奥に大きな大きな木があって、その傍に大きな家があり、三人の娘が住んでいました。
一番下の娘は、黒々とした髪で色黒で大きな目が愛らしかったのですが、可哀想に、生まれつき目がよく見えません。
二番目の娘は、細かく波打った髪を長く伸ばし、目元に小さなほくろがあって、素晴らしく綺麗でした。誰もが、あなたはお母さんにそっくりだねと言いました。
一番上の娘は、キリのように痩せていて、あまり笑うのが得意ではなく、大人しくて無口でした。

ある時、三人姉妹の父親が言いました。お前たちにそっくりのお人形をこしらえてあげることにしよう。
三番目の娘が言いました。これはジャンケンをしなくても決まりね。一番最初に作ってもらえるのは長女に決まっているもの。二番目が次女で、最後が私ね。
けれど、父親がこしらえたのは二番目の娘の人形、そして三番目の娘の人形だけでした。というのも、彼が愛しているのは美しいものだけだったからです。

二番目の娘は、妹にそっと耳打ちして言いました。
お前は目が見えないから分からないでしょう。キリコには気をおつけ。
あの人は継子だから、私たちのお母さんを憎んでいる。油断してはならないよ。
ほら、お母さんを階段から突き落とそうとしている。ほら、毒入りのお菓子を食べさせようとしている。キリコには気をおつけ……。

 ・
 ・
《三羽十秋[ミワ・トアキ]の話》
十六歳の夏休み、参加していたフリーマーケット会場の木の上に、十秋は六年前に死んだ同級生、キララを見た気がした。

キララは、十秋が遠い田舎町に住んでいた頃、クラスに転入してきた女の子だ。黒々とした髪を短く切って、色黒で目が大きくて、愛嬌たっぷりの生き生きした表情をしていた。どんな高い木にもスルスルと登ってしまう。クラスの誰もが彼女に憧れた。どこからか悪い噂が流れるまでは。キララは仲間外れにされたが、それでも物怖じすることなく、元気に毎日過ごしていた。

十秋はと言えば、独りでもないが特に親しい友人はいない。でも満足していた。笑うのは得意ではなかったし、楽しいお喋りも出来なかったから。それに、大人しく良い子にしていないと継母をがっかりさせる。

十秋が六、七歳の頃に家に来た継母は、繊細な人だった。十秋が十六歳になった今は小太りしているが、その頃は折れそうなほど痩せていて、内心怖いと思ったものだ。料理が得意で、毎日たくさんテーブルに並べる。そんなに食べられやしないのに。そして必ず「美味しい?」と訊く。そう答えないと絶望した顔をして、次の日は朝から一日中、台所で目を吊り上げている。
だから十秋は、継母の見ていない隙にビニール袋に料理を捨てる。最近はトイレで吐いている。
(そうしないと、あの女[ひと]、壊れてしまう。)

あの女[ひと]は私を愛そうと躍起になっている。でも本当はこう思っているんだ。自分が産んだのでもない、こんなに可愛げのない子を、どうして愛さなければならないんだろう。こんな子、いなければ楽なのに、って。無口ではっきりものを言わない人だけれど、私には解る。
(だって、私に似てるから。)(似てる? そんな筈はない。血も繋がっていないのに。)
だから油断してはいけない。料理なんか食べてやらない。継母の愛情のこもった料理を食べ続ければ、きっと体中が毒でいっぱいになってしまうのだから。

十秋とキララはちょっとしたきっかけで口をきき、仲良くなった。
キララの家は、森の奥の判りにくい場所にあって、傍には大きな木が立っていた。中には色んな人形が山と並べられている。
キララの母は人形を作る仕事をしているのだと言う。やはり人形職人だった祖父は綺麗な人形を作るのが好きだったが、母は面白い人形を作るのが好きだとか。

キララの家にある人形たちは、何処か不気味だった。それに、あれほど話題にされる母親に一度も出会わないのも奇妙だ。
キララはいつもお菓子を出してくれたが、十秋は隙を見てビニール袋に入れて捨てていた。
このお菓子は、きっと毒だ。ここにあるお人形は元は人間で、私も殺すか人形にしてしまうつもりなんだ。油断してはならない。

十秋は、自由奔放で(良い子じゃないのに)周囲に愛されているキララが嫌いだった。悪い噂を流したのだって、実は十秋なのだ。

それでもキララの家に行くのをやめなかったのは、気になる人形があったからだった。
細かく波打った髪を長く伸ばし、目元に小さなほくろがある、素晴らしく綺麗な人形。
継母が来るより前、既に亡くなったという産みの母の写真を、十秋は父にせがんで見せてもらったことがある。その母に人形はうり二つに思えた。

なのにキララは言ったのだ。そのお人形は私のママだよ。おじいちゃんが若い頃にママをモデルにして作ったの。とっても綺麗でしょう。

十秋はキララを罵り、屋上に駆けのぼると、ほくろの人形を投げ捨てた。人形は家の傍の大きな木に引っ掛かり、キララは取り戻そうと木を登り始め――落ちた。

どれほど震えていたのだろう。恐る恐る行ってみた木の下に、キララの姿はなかった。落ちていたのはほくろの人形だけ。十秋は、それを抱えて自分の家に逃げ帰った。
次の日からキララは学校に来なくなり、先生も何も言わなかった。やがてクラスにはキララは死んだと言う噂が流れた。

でも、本当にそうなのか、定かではない。だから六年後の今、キララは十秋を探して現れたのだろうか?

キララは何度も十秋の前に現れた。木の枝の上、マンション四階の窓の外。にこにこと人懐こく笑いながら、誘うのだ。
ここから一緒に飛ぼうよ、十秋ちゃん。と。
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《魔女と継子の話》
森の中の大きな家に、魔女と継子が住んでいました。
家の傍の大きな木に、魔女は継子を登らせます。どんなに泣いても下りることを許しません。
魔女は何度も継子をぶちました。
どうして食べないの、そんなに痩せて。ほら、お菓子を焼いたわ。これなら食べられるでしょう。子供はお菓子が大好きなんだから。

ある時、継子はケーキを焼きました。魔女の誕生日だったからです。
恐る恐るそれを口に運ぶなり、魔女は悲鳴をあげて椅子から転がり落ち、叫びました。
毒を入れたね! ああ、油断した。あの子があんなに忠告してくれていたのに。
そしてそのまま死んでしまいました。

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《天沢亘[アマサワ・ワタル]の話》
キララが亘の家にやってきたのは、一年ほど前のことだ。母宛てに宅配便で送られてきた大きな木箱の中に入っていた。
キララは木箱から出てきて、亘の母に「こんにちは、ママ」と笑った。目元にほくろのある美しい母は否定せず、とりとめのないキララの思い出話に頷いていた。

どういうことだろう。キララは亘と同じ年だと言うから、自分たちは双子になってしまう。けれど彼女は自分に似ていないし、数年前に死んだ父とも似ていない。
問い詰めても母は答えず、ただ、キララを家族として受け入れてあげてと言った。でも家の外に出しては駄目よ。外に出たらキララはとてもいたずらっ子になってしまうから、と。

けれど一年ほどが過ぎた夏休み、十歳年下の妹・心[ココロ]が、キララを憐れんで外に出してしまったのだ。キララは身軽に木に登り、建物の外壁を登って、それきり帰らなかった。人形の店の経営で家を空けている母に知られる前に、連れ戻さねばならない。亘と心はあちこち探し回った。

フリーマーケット会場で出会った十秋という少女は、どういうわけかキララを知っているように思われた。
彼女の父は若いころ人形工房に勤めていたことがあり、今でも日曜日だけ《おもちゃのお医者さん》をしているのだと言う。心が自分のおもちゃの修理を頼んだので、何度か会うことになった。

何度目かに出会ったとき、十秋は酷く憔悴していて、亘と心は仕方なく彼女を自宅に連れ帰った。彼女は亘の母を見ると愕然とし、尋ねた。

「あなたは……十秋のママ? それともキララのママ?」


亘の母は答えた。

「ありえないことじゃないわね」「あなたと亘が双子であればね」「そういえばよく似てる 目も鼻も口も」「他人とは思えないくらい」
「わたし女の子が生まれるような気がしていたの 女の子が欲しかった だから……」「名前も決めていたわ」
「……」「でも生まれたのは男の子」「わたしが産んだ女の子は心だけ」


亘の母・ナギコは十六歳で最初の結婚をし、後に精神科医だった天沢と再婚した。すぐに別れた最初の夫が、十秋の父・三羽だったのだと言う。そしてきっぱりと言った。彼がどうして私の写真をあなたに見せたのかは知らないけれど、私はあなたのお母さんではないわ、と。
そして、消沈する十秋を車に乗せて、家まで送って行った。

一方、亘は鍵の掛けられている物置部屋に入り、キララ入りの木箱と共に届いた、母宛ての手紙を読んだ。

『突然ですが キララを 送ります
 キララが 母親に 会いたがって いるからです
 動くあなたと暮らすことが あの子の 夢だったから
 キララの夢を叶えてあげたいと思い 送ることにしました
 どうか しばらく あの子と一緒に暮らしてあげてください
 でも 守って欲しいことがあります キララを 決して 外に出さないでください
 いけないことだと わかっていながら わたしはキララに魔法をかけてしまいました
 外に出せば キララは 会いに行きます
 十秋に
 知ってますか? 十秋と あの女は あなたの近くで暮らしているんです
 わたしは あの女を この手で 殺したはずなのに』


そしてまた、「三羽ナギコ」宛てになっている、亘が生まれる前の消印のハガキも見つけた。

『ナギコ
 わたしね もうすぐ子供が産まれるの
 この子は 一人で産んで 一人で育てるつもり
 父親が誰かなんて ナギコに言う必要はないわね きっと
 女の子が生まれたら 名前は”キララ”と付けるつもり
 そう決めてるの』


どちらも、送り主の名前はない。
どういうことなのだろう。古いハガキの送り主がキララの母親なのだろうか。でも、キララと一緒に送られてきた手紙の方は、亘の母がキララの母親であるかのように書いてある。

考え込んでいた亘のもとに報せが届いた。十秋を車で送っていた母が、途中で壁にぶつかる事故を起こし、重傷を負ったと言うのだ。
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《人形職人と弟子の話》
森の奥の工房に、人形職人が住んでいました。
彼の妻はたいそう美しく、二人の娘も妻に似て綺麗でした。上の娘は目元に小さなほくろがあり、妻に一番よく似ていました。下の娘は手術をするまでは目がよく見えなかったのですが、大きな目はキラキラしていて、人形が大好きで、工房に置いてあった人形をいつの間にかひとりでに動くように変えてしまうのです。

職人には、前の妻との間にもう一人、娘がおりました。けれどその子はキリのように痩せていて、あまりはっきりものを言いません。ですから、職人はその子を顧みませんでした。何故って、彼が愛しているのは美しいものだけだったからです。

キリコが継母にぶたれていても、父親に冷たくされていても、誰も気にかけませんでした。職人の若い弟子以外は。彼はキリコに同情して、優しくしてくれました。
けれど、娘たちは知っていました。彼が本当に好きなのは、美しい母親なのだと。何故って、彼もまた、美しいものを愛していたからです。

弟子が花嫁に選んだのは、母親に一番似ている二番目の娘でした。彼は花嫁に言いました。

『きみに子供が生まれたら 女の子ならキララって名前にしよう』『僕は女の子が欲しいんだ。きみによく似た 美しい子が』

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《三羽キョウコの話》
キョウコには過去の記憶がない。
気が付くと病院のベッドにいて、頭や体に酷い怪我をしていた。ベッドの傍に付いていた彼は、君は森に倒れていたんだ、きっと木から落ちたんだろうと言い、何も思い出せないと聞くと、それなら思い出さない方がいいんだろうと言って、キョウコという新しい名前をくれた。数年を病院で過ごし、彼と結婚して、彼の家で暮らし始めた。

彼には十秋という娘がいた。痩せっぽちで、あまりものをはっきり言わない。従順で、毎日暗くなる頃には帰ってきてご飯を食べ、「美味しい」と言ってくれる良い子だ。
(私を気遣って、後で吐いてまでも食べてくれる優しい子。)
そう。キョウコは知っていた。和やかな食事の後で、十秋は料理をトイレで吐いている。まるで毒でも盛られたとでも言うように、必死に。

あの子は昔から私になつかなかった。私を愛したことなどきっと一度もないわ。継母だもの。私を警戒して、絶対に母親だとは認めない臆病者。私には解る。
(だって、私に似てるから。)(似てる? そんな筈はない。血も繋がっていないのに。)

十秋が十六歳になった夏休み、キョウコは、四階の窓の外から覗き込む、十秋と同じ年頃の女の子を見た。黒々とした髪を短く切って、色黒で目が大きくて、愛嬌たっぷりの生き生きした表情をしている。キララと名乗り、キョウコをママと呼ぶ。そしてマンションのベランダから飛び降りて姿を消した。

キョウコにおぼろな記憶がよみがえる。
夫と結婚する前、自分には子供がいた。小さな可愛い女の子。名前は、そう、キララ。

記憶を求めて、キョウコはかつて入院していた病院のある田舎町を訪れる。が、何かに引かれるように森に入り、傍に大きな木のある家に辿り着いていた。

黒々とした髪を伸ばした目の美しい女性が現れ、管理人と名乗った。彼女は、髪を短く切って色黒で目が大きくて愛嬌たっぷりの、お人形のように可愛い五歳くらいの女の子を抱いていて、自分の娘だと言ったが、奇妙なことに、「私の子供は死んで、もういません」と言う。彼女は語った。

「噂があるんですよ」「この家で人が殺されたって」
「そこで 毎日 人形を作っていた老人の妻が」「誕生日に」「娘の作ったバースデーケーキを食べたあと死んだの」
「妻はもともと心臓が弱くて 死因も 持病からくる心臓発作だったんですけど」「どうして殺されたなんて噂が流れたかというと」「彼女自身がそう訴えたから」
「もちろんケーキに毒なんて入っていませんでした」「妻は普段から神経症ぎみで 家族も扱いかねていたようですから」


しかし老人は、妻の言葉だけを信じたのだ。キョウコはそれを思い出した。父は彼女を罵り、生まれたばかりだった彼女の赤ん坊を取り上げた。お前のような恐ろしい子に子供が育てられるはずがない、母親を殺そうとするような、父親の分からない子を産むようなお前が、と。

彼女は赤ん坊を探し回り、最後に、父が溺愛していた美しい妹のところへ行った。何故なら、妹が産んだのは男の子だったから。彼の望むとおりに女の子を産んだ私に嫉妬していた筈だから。だから隠しているに違いない。
彼女の赤ん坊を盾にキララを返せと脅すと、妹はどこからか女の赤ん坊を連れてきた。

けれど、それはキララではなかった。騙されたのだ。
それに気付いたのは、あちこちを転々として、父の死後に空き家になっていたこの家に戻ってきた五年目のこと。

そして二人の魔女が子供を連れさらうためにやってきて、この家にいた魔女を階段から突き落とした。

管理人を名乗る女性は言う。

「まさかキリコが生きてるなんて思わなかった」

「もっと早く……」「あなたが生きてるって」「もう少し早く知ってたら……」「わたし あの子を思いきり この手で抱けたのに」「やっと見つけたあの子を」「何年も探し続けて やっと会えたあの子を」「こんなに汚れた手で あの子を抱くわけにはいかない」「だって」「だってあの子に見られてしまった」「わたしがあなたを殺すところを」


だから取り戻した娘の前に決して姿を現さず、声と、テレビ画面に映した、目元にほくろのある美しい姉の顔の写真だけで接し続けていた。

「キリコ わたし2度子供を失った」「1度目は あなたが赤ん坊のあの子を奪って行った時」「2度目は十秋が……」「でも もう わたし あの子を取り戻せない」「なぜなの? あの子を捜すことも取り返すことも もうできないの」


キョウコは呟く。

「わたしと十秋が…」「あなたの子を殺した…」「あなたと…誰の?」


人形職人の一番下の娘、今は見えるようになった目の美しい女性、アキラは尋ねた。

「ねえキリコねえさん」「十秋は誰の子?」「十秋の本当の母親は誰なのか知ってる?」

「あなたはキララを抱くことができるけれど」「わたしはもう2度とキララを抱くことはできない」「あなただけが全てを忘れていられるなんて許さない」


そして彼女はキョウコを地下室に閉じ込めた。
 ・
 ・
《眠り姫の話》
十歳で眠りについたその女の子は、十六歳の誕生日に眠ることをやめました。
黒々としていた髪は長く長く伸びて、沢山のお花で埋められています。

母親は泣きながら《キララ》を抱きしめて、魔法をかけました。

「わたしは動くお人形を作るのが大好き」「あの子が出来なかったことを この子がやってくれる」
「でもあなたは 他の子とは少し違うの」「いつかきっと 淋しくなる時が来る」
「1人ぼっちで淋しくなったら 十秋に逢いに行きなさい」「きっと一緒に飛んでくれるから」「仲良く手をつないでね」「決して手を離してはだめ」「一度繋いだ手は2度と離れない」


けれど、眠り姫は《キララ》に言いました。

(もう あなたと おしゃべりすることはできないけど わたしたち いつも一緒だよ)(だってあなたは わたしだから)
(でも ママに わたしの声は届かない)(わたしには こんなにママの声が聞こえるのに)
(忘れないで わたしはいつもあなたの側にいる)(淋しくなったら 思い出してね)
(だから)(1人で飛ぶの キララ)

 ・
 ・
《三羽十秋の話》
夕飯時を過ぎたのに、継母が帰ってこない。とうとう、私は捨てられたのかもしれない。
事故で負った傷以上に、心の重さに潰れそうな十秋の前に《キララ》が現れ、ベランダにいざなうと手を握り締めた。

「十秋ちゃん よかった」「やっと飛ぶ気になってくれたんだね」
「十秋ちゃん 一度つないだ手は」「もう2度と……」「離れないよ」


しかしまた、飛ぶ直前、《キララ》は何かを思い出したように呟いた。

「淋しくなったら」「思い出して…」



怪我で朦朧とする十秋に、《ほくろのママ》は言った。

「あの時 キリコを森へ捨てなければよかった」「地下にでも閉じ込めておけば」
「母はうまく殺せたのに」「キリコとあなたは……」
「なぜなの?」「どうしても あの人の気持ちが離れて行ってしまう」
「忘れて暮らしていたかったのに」「アキラが突然 キララを送ってくるから」



本当の魔女は誰なのか。
キララは何者なのか。父親は誰なのか。
そして、十秋の本当の母親は誰なのだろうか。


あらすじは整理して書いたが、この漫画は複数の人物視点の流れを交差させ、時に悪夢のようなイメージエピソードで繋いであって、何重もの入れ子状にイメージが重ねてあり、複雑な構成になっている。その意味で、何度も読み返したくなる物語だ。

たとえば、物語中には《おねだり天使》という、よちよち歩きのキューピッドのような可愛い自動人形が登場するが、これは《子供》を暗示する存在である。十秋やキララは子供だが、同時に、母親のイメージも重ねられている。キララは《天使》を求めて探し回り、十秋は《天使》を嫌悪して逃げ回る。けれど《天使》はどんなに傷つけられても十秋を追う。重い石であろうとも、与えられると喜ぶ。十秋自身が残酷な母親でもあった。
が、物語の最後に、十秋は天使から重荷を取り除く。
そして、天使を探すと言って立ち去った《キララ》を見送って呟いた。「天使はここにいるのに」と。
愛されるべき子供としての自身を取り戻した十秋は、母の待つ家に帰っていく。

十秋と彼女の母親は、あらゆる点で似ており、重ねられている。
物語の最後、母親は手放していたものを取り戻すが、十秋は新たに手放してしまう。しかし、そこにやっと《再生》の可能性が生まれ、救いが生じている。

十秋は、憧れ続けていた《暖かい明かりの中で待つお母さん》を見出した。
その姿に読者として安堵を覚えるが、十秋に道を指し示して独り立ち去っていく《キララ》の姿には、切なさを覚えずにはいられない。

彼女は最後まで快活で、笑顔だった。幼い頃、母親が言う《学校で出来るだろう仲の良いお友達》に憧れていた。十六歳の十秋の前に現れた《キララ》は、母親に教えられたとおり、十秋をお友達だと呼び続けた。けれど、最後に十秋に道を教えるキララは、私のこと知ってるのと問われて、こう返す。

「いっつも見てたよ 十秋ちゃんのこと」「お友達になりたいなあって思いながら」
「じゃあ 元気でね十秋ちゃん」


眠りに就いた彼女も、いつか《天使》を見つけることができるのだろうか。


この物語は《母親と娘》をテーマにしているが、実は、彼女たちはみんな《父親、または夫》に支配されている。
《彼》の愛を競い、エレクトラたちは《人形》を奪いあう。決して《彼》を攻撃することはないのだった。
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【2009/10/16 00:54】 | すわさき・感想
【タグ】 漫画の感想  
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素晴らしい。
きらり
凄いですね!感動しました。
私はずっとあなたのように、ブログに詳しく書いてくれる方を探してました。

ひとつだけ質問です。
十秋が帰ったのは、一体誰の家なんでしょうか?
継母ですか?それとも、ほくろのママの家?

ありがとうございます。
すわ@管理人
> ひとつだけ質問です。
> 十秋が帰ったのは、一体誰の家なんでしょうか?
> 継母ですか?それとも、ほくろのママの家?

むむ。この質問をされるということは、実際の漫画を読まれてはいないんですね。漫画では絵でしっかり、十秋を待つ母親の姿が描かれていましたから。

答えは、「十秋の実の母親」の家です。
私の書いた適当なあらすじからでも、実の母親が誰なのかは判ると思います。…多分。判りにくかったらすみません。(^_^;)

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コメント
この記事へのコメント
素晴らしい。
凄いですね!感動しました。
私はずっとあなたのように、ブログに詳しく書いてくれる方を探してました。

ひとつだけ質問です。
十秋が帰ったのは、一体誰の家なんでしょうか?
継母ですか?それとも、ほくろのママの家?
2010/04/29(Thu) 10:09 | URL  | きらり #-[ 編集]
ありがとうございます。
> ひとつだけ質問です。
> 十秋が帰ったのは、一体誰の家なんでしょうか?
> 継母ですか?それとも、ほくろのママの家?

むむ。この質問をされるということは、実際の漫画を読まれてはいないんですね。漫画では絵でしっかり、十秋を待つ母親の姿が描かれていましたから。

答えは、「十秋の実の母親」の家です。
私の書いた適当なあらすじからでも、実の母親が誰なのかは判ると思います。…多分。判りにくかったらすみません。(^_^;)
2010/04/29(Thu) 20:44 | URL  | すわ@管理人 #r.0hNWwI[ 編集]
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