「はてなどう」「ナラカ」「円環伝承」共用。書き手は ちゃすかとすわさきの二人。
デカガール 1 (KCデラックス)デカガール 1 (KCデラックス)
(2009/01/30)
長崎 尚志

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講談社の女性漫画誌『Kiss+』連載の、本格刑事漫画。


日野まる香は刑事になることを夢見て警察に入ったが、女性であることを理由に軽視され、上司が推薦をしてくれず、事実上、夢への道は閉ざされていた。

ついに辞表を書き上げたその日、事件が起こる。離婚した妻子を人質に、男が銃を持って立てこもったのだ。警察は説得を試みるが、返った返答は、腹が減ったから昼食の出前を届けさせろというもの。
若い刑事が出前人に変装して近づいたものの、元は飲食店に勤めていたという犯人に見抜かれて発砲される。警戒心を強めた犯人は、本物の出前人が防弾チョッキ無しで持って来い、さもなければ妻子と心中すると言ったのである。
本当に民間人にそんな真似をさせるわけにはいかない。しかし、このままでは…。

そこで白羽の矢が立ったのが、まる香だった。彼女は地元の警官であり、かつ、実家はそば屋で出前に慣れていたからだ。

戸惑いや躊躇はあったものの、彼女はその任を引き受ける。そして、彼女がとったある行動がきっかけとなり、警察は犯人の取り押さえに成功したのであった。


この件で推薦が通り、まる香は念願の刑事になれた。
しかし男ばかりの刑事たちは、この若くて頼りなさげな女を、あかさらまに軽視する。

が、実はまる香には、ある特殊な能力があった。
嗅覚が、それこそ警察犬なみに鋭いのだ。(同類的な何かがあるのか、犬猫にはよくなつかれる。)

この能力と、女性ならではの知識や発想、視点によって、まる香は男性の刑事たちには見えなかった事件の側面を照らしだし、事件を解決に導いていく。



原作者の長崎 尚志は元・小学館の漫画編集者で、ストーリー面に大きく関わるタイプであり、後に独立してフリーの漫画編集者・漫画原作者となった。複数のペンネームを持っている。
浦沢直樹と組んでの『20世紀少年』『PLUTO』が有名どころ。『20世紀少年』は劇場版の脚本にも関わっている。
なお、漫画編集者でもストーリー作りに関わる以上、著者の一人だと主張して、『PLUTO』(手塚治虫の漫画のリメイク)では著者欄に己の名を記載し、著作権を持っている。曰く、編集者が原稿取りをするだけの裏方扱いされるのが常々不満だったため、立場向上のためにやったとのこと。


やはり浦沢が作画を担当した『MASTERキートン』では、勝鹿北星(きむらはじめ)の原作を、担当編集者だった長崎が改変していたという。事実は不明だが、原作者が原作を書かないので長崎と浦沢のみで創ったと両氏が主張したという報道もある。

打ち合わせは長崎と浦沢の間のみで行われていたそうなので、そりゃ、原作を書いても断りなし・または一方的に改変され続けたのでは、書く気もうせていくのではないかと同情したくなる。

勝鹿は既に亡くなっているが、『キートン』が人気漫画であるにもかかわらず、予定されていた文庫化が土壇場で取りやめになり、ここ九年ほど絶版状態になっているのは、この件でトラブルがあるからだという噂もある。

勝鹿が亡くなる五年前、この漫画がコンビニ用にペーパーブック化された際、(浮世絵師の葛飾北斎をもじった)勝鹿北星のペンネームに対抗したかのような、(浮世絵師の東洲斎写楽をもじったと思われる)「藤州犀南北」なる人物が巻中にコラムを書き下ろし、この作品で扱われた考古学の学説について熱く語っていたものだが、これは長崎のペンネームの一つではないだろうか。彼が後に使い始めたペンネームの一つ「東周斎雅楽」とよく似ている。本当の作者は私だ、という主張だったのかもしれない。



さて。この話はここで置いておいて。
今回この漫画を取り上げたのは、別に理由がある。

この漫画は2008年4月8日発売の5月号から連載開始されたが、その一週間前の4月1日、集英社の女性漫画誌『YOU』No.8にて、森本梢子が『デカワンコ』を連載開始している。
作者の森本梢子は、ドラマ化された『研修医なな子』や『ごくせん』で知られている、人気漫画家。

この漫画、『デカガール』と基本設定の一部がそっくりなのだ。


デカワンコ 1 (クイーンズコミックス)デカワンコ 1 (クイーンズコミックス)
(2008/10/17)
森本 梢子

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警視庁捜査一課・強行犯捜査第6班。強面の刑事たちの揃うこの部署に、新人女性刑事が配属されてきた。彼女の名は花森一子。ぽやっとした幼い顔立ちにくるくるの黒髪ツインテール、ふりふりで派手なゴスロリ服を身をまとった彼女は、見た目通り、賢くも鋭くもなかった。そのうえ、よく警察学校に入れたなレベルの超鈍足。尾行もまともにできない。

そんな彼女は警察署長のお気に入り。
しかも、警察犬なみに鼻がきくという特殊能力を持っていた。(警察犬と真剣・対等にライバル関係を結んでいる。)

強面の刑事たちが、この奇妙な新人女刑事、通称「ワンコ」に振り回されつつ、事件を解決していく。



ご覧のように、『デカガール』と『デカワンコ』は、基本設定の一部…「ネタ」と言うべきか…が似ている。
警察犬なみに鼻の利く女刑事。新人で配属されたばかり。彼女が「匂い」を根拠に何かを主張しても、最初はなかなか信じてもらえない。……ついでにタイトルも似た感じ。(笑)

尤も、似ているのは設定だけで、味付けは全く異なるのだが。『デカガール』は真面目な刑事ドラマで、まる香の成長ドラマでもある。一方『デカワンコ』は、奇人・一子を中心にしたギャグである。


私は先に『デカガール』を読んでいて、後に『デカワンコ』を知ったので、『デカガール』の原作を手直しして別の漫画家に描かせたものなのかな? と最初は思った。しかしこちらには原作者表記などない。それによくよく見れば出版社が違うし、調べてみると『ワンコ』の方が一週間だけ初出が早い。

後発となる『デカガール』の方も、いくらなんでも一週間で真似はできないし、そもそも、同じ特殊設定のある、同じ購買層向けの漫画を、ほぼ同時に出す、なんてリスクを自ら負う必要はないので、本当に偶然、設定やタイトルの感じがかぶってしまったということなのだろう。


この件で思い出したのは、漫画『テレキネシス』二巻に収録された、「紳士同盟」というエピソードだった。
小学館の青年誌『ビッグコミックスピリッツ』に連載されていたこの漫画は、長崎 尚志が東周斎雅楽のペンネームを使って、やはり芳崎せいむと組んで創ったものである。

テレキネシス山手テレビキネマ室 2 (ビッグコミックス)テレキネシス山手テレビキネマ室 2 (ビッグコミックス)
(2005/12/26)
東周斎 雅楽

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野村 真希乃、通称マキノは山手テレビの新入社員。敏腕だが組織に迎合せず半ば左遷されているプロデューサー・東 崋山を上司に、旧社屋の試写室兼事務室、通称テレキネシスで、深夜映画番組「金曜深夜テレビキネマ館」を担当している。

ある日、マキノの祖父が上京してきた。旧制高校時代からの友人を見舞うためだ。彼は既に昏睡に近い状態にあるという。
しかし友人の家族に、直接会うことも見舞いの品も拒まれる。二人の間には深い確執があった。

マキノの祖父は、地方のラジオ局のプロデューサー。友人は東京のテレビ局でフリーの脚本家となり、互いにヒットを飛ばしていた。
ところが、マキノの祖父の企画した、少し特殊な題材のラジオドラマが地方で人気を博した一ヶ月後、設定などがそっくりのテレビドラマが東京のテレビ局で放送されたのだ。脚本は祖父の友人。

彼は何も真似していないと言い張ったが、親友同士の二人には定期的に会う習慣があり、彼は少し前にマキノの祖父の家に遊びに来たことがあった。

この件で局同士がもめ、マスコミにも取り上げられて騒ぎになったが、真相はわからなかった。
ただ、先に作品を発表したマキノの祖父は世間から同情的に見られ、友人の方は、その後、仕事に恵まれなかったという。


華山は、試写室でマキノの祖父に古い映画を観せた。『紳士同盟』。1960年のイギリス映画だ。マキノの祖父は驚いた。同年制作のアメリカ映画『オーシャンと11人の仲間』(2001年の『オーシャンズ11』のオリジナル)と、設定がそっくりだったからである。

驚く祖父に、華山は語った。

「『紳士同盟』と『オーシャンと11人の仲間』……」「同じ年、お隣同士の二つの国でまったく同じ設定の映画が生まれたんです。」「元エリート軍人が手を結び、無血でまんまと大金を手に入れる。」
「フランク・シナトラ、ディーン・マーティン主演の『オーシャンと11人の仲間』は明るいコメディーとして。」「ベイジル・ディアデン監督の『紳士同盟』は、骨太の男のドラマとして。」
「スタッフにはなんのつながりもありません。」「同じ時代を生きる才能同士には、しばしばそういう偶然が起きるんです。」




「同じ時代を生きる才能同士には、しばしばそういう偶然が起きる」。
それを、この漫画の作者自身が数年後に体現したのだから面白い。


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余談ながら。
似ているといえば、『おおきく振りかぶって』で有名なひぐちアサの初連載作『家族のそれから』(初出2000年)と、『花とゆめ』で活躍していた遠藤淑子の読みきり漫画『家族ごっこ2[セカンド]』(初出1998年)も、設定がよく似ている漫画だ。
機会があったら、読み比べてみてはいかがだろうか。どちらも秀作だし、バージョン違いのような二作を読み比べることで見えてくることもあって、面白い。

家族のそれから (アフタヌーンKC)家族のそれから (アフタヌーンKC)
(2001/06)
ひぐち アサ

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家族ごっこ (白泉社文庫 え 1-10)家族ごっこ (白泉社文庫 え 1-10)
(2007/07)
遠藤 淑子

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【2009/09/17 17:36】 | すわさき・感想
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