「はてなどう」「ナラカ」「円環伝承」共用。書き手は ちゃすかとすわさきの二人。
ラプンツェル

ラプンツェル Valerianella locusta
別名:野萵苣[ノヂシャ]、マーシュ、コーンサラダ、フェルトザラート

日本ではハーブ扱いで、栽培品種名「プチレタス」「マーシュレタス」「サークルリーフ」などの名でも流通しているようです。
標準和名は野萵苣[ノヂシャ]ですが、「ラプンツェル」の方が面白いかと思うので、こちらを主名に扱います。

ラプンツェルオミナエシ科ノヂシャ属の越年草。
草丈10~30cm。花期は春から夏とされますが、自分の印象では四月末~五月頭。
花は径2mm程で球状に集合し、綺麗な浅葱色をしています。
茎は又状に分岐。ちょっぴりミミナグサを思いだす感じです。

湿り気のある場所を好み、田畑の畔などに見られます。
写真は河原の水路脇で撮影しました。近所に自生していることを知らなかったので、見つけた時は嬉しかったです。


地中海原産の帰化植物です。江戸時代にヨーロッパから長崎に持ち込まれ、野菜として栽培されていたものが野草化したのだとか。
日本では雑草でしかありませんが、ヨーロッパではサラダにする野菜として栽培され、よく食べられています。(基本的に、薹[とう]が立って花が咲く前の根生葉を食べます。)
癖が無くて食べ易く、ほんのりヘーゼルナッツの香りがあるとか。
栄養価が高く、なんとレタスの3倍のビタミンC、B6、B9、ビタミンE、β-カロテンを含むんですって。

思えば和名「野萵苣[ノヂシャ]」からして「野に生えた萵苣[チシャ]」の意味です。
萵苣とはレタスの和名。
レタスはキク科ですし、見た目からして全く違う植物なのですが、根生葉の状態だと小さいながら(玉にならないタイプの)レタスにちょっぴり似ている事と、同じようにサラダにして食べる事からそう名付けられたようですね。

この草、英語では主に「Corn salad [コーンサラダ](穀物畑のサラダ菜)」か「lamb's lettuce [ラムズレタス](羊のレタス)」と呼ばれます。これらの名は、この草が(身近な食用植物でありつつも)畑に生える雑草であったことを示しており、店で売られるようになったのは1980年代に入ってからとのこと。日本で言うとウドやフキのようなものなんでしょうか。
フランスでは主に「mâche [マーシュ](歯ごたえのあるもの?)」、ベルギーでは「salade de blé(小麦畑のサラダ菜)」、ドイツでは主に「Feldsalat [フェルトザラート](野のサラダ菜)」と呼ばれています。

各国それぞれ複数の別名がありますが、ドイツでのマイナーな別名に「Rapunzel [ラプンツェル]」があるんですね。

ラプンツェルの花ご存知のように、ラプンツェルはドイツの『グリム童話』にある、塔に閉じ込められた髪長姫の名前でもあります。
今年の春にディズニーでアニメ映画化もされましたから、知名度は更に上がっていそう。

妊娠した母親が魔女の畑の立派なラプンツェルをどうしても欲しくなり、盗んで食べてしまう。生まれた娘は「ラプンツェル」と名付けられ、魔女の娘として異界に暮らすことになるのです。


豊かな畑を持つ醜い老魔女は、黄金リンゴの果樹園を持つ美しい女神と同一の存在です。神は生命と死、双方の面を持つのですから。
世界各地の多くの民話や神話で、生命のリンゴを食べた女が神の子を生むように(日本民話で言うなら、川を流れてきた桃を食べた婆が桃太郎を生んだように)、女神の園のラプンツェルを食べた女は小女神を生みます。(逆説的には、神の申し子なので特別な出自でなければなりません。)
神の子ですから、女神(魔女)が自分の子として異界へ連れ去ってしまいます。

さて。
女神の園の食物は、黄金のリンゴでも桃でも何でもいいわけで、必ずしもラプンツェルでなければならない訳ではありません。
実は、この系統の民話は本来ドイツにはなく、イタリアやフランスに主に伝えられていたもの。そして、そちらでは母親が盗み食いする野菜は、概ね「パセリ」だったのです。

パセリちゃん(ペルシネット)が活躍するフランスの再話文学を基に、パセリをラプンツェルに変えた小説を書いたのはフリードリッヒ・シュルツという十八世紀のドイツ人です。
ドイツ文化の素晴らしさを知らしめる意欲に燃えるグリム兄弟は、この小説をドイツ独自の民話を基にした再話文学だと思い込み、自分たちなりに「簡略化して民話らしい形に戻して」童話集に加えたのだと言われます。うっかりさんですね。

シュルツが何を思ってパセリをラプンツェルに変えたのかは判りません。
料理の付け添えにする野菜、という点が似ていたからなんでしょうか?

パセリ(またはウイキョウやセロリ等のセリ科の香草)は古代ギリシアやローマでは聖なる植物の一つとして扱われていたようで、女神の園の野菜として相応しいのですが(『オデュッセイア』に出てくる小女神カリプソの島にはパセリ(またはセロリ)とスミレの花が咲いていたとされる)、ラプンツェルはどうなのか。
ただ、花が可愛らしいのは確かですよね。
シュルツは香り高く魔力持つ《パセリ》よりも、癖がなく大人しい《ラプンツェル》の方が好みだったのかもしれません。

『ラプンツェル』に関しては民話想で扱っています。宜しければ、物語の詳細をそちらでご照覧下さい。イタリアやフランスの類話も読めます。


ラプンツェルの花言葉
約束を守る
粘り強い性格

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【2011/06/10 00:48】 | すわさき・その他
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ハナイバナ

葉内花[ハナイバナ] Bothriospermum tenellum

ハナイバナの花
ムラサキ科ハナイバナ属の越年草。日本のほか、朝鮮半島、中国、東南アジア、インド等にまで分布。
花期は長く、春から冬まで、直径2、3mm程度の小さな青い花を咲かせます。
草丈10~15cm程度。


花の様子や大きさが同じムラサキ科のキュウリグサに似ていますが、中心に円を作っている鱗片が白いです。(キュウリグサは鱗片が黄色い。)

ハナイバナとキュウリグサの花の比較


茎や萼には白い毛が生えています。

ハナイバナ


実は2mmほどの大きさで、四つに分割されています。四分果と呼びます。

ハナイバナの実


ハナイバナ
葉内花[ハナイバナ]の名は、葉、花、葉、花と順番に、花が葉と葉の間(内側)に咲く様子から名付けられました。

しかし別説もあり、葉が萎[しな]びたように波打っている様子から「葉萎[な]え花」→ハナイバナ、とも。


ハナイバナは、紙の図鑑でもWebページでも、十中八九「キュウリグサに似ている花」として扱われています。

確かに、花の咲く時季も同じですし似たような場所に生えていますし、花一輪を比較すれば大きさも形も色もよく似ています。

ですが、生えている様子を実際に見れば、間違える人はあまりいないのではないでしょうか。
花の付き方がまるで違うので、パッと見た時の印象も明らかに異なっているからです。

ちなみに、専門家は花序の先が巻いているかどうかも識別点として挙げるようです。
キュウリグサが、花茎の先端がクルリと巻いたサソリ型花序を成す(花の時季が進むにつれて解[ほど]けて行く)のに対し、ハナイバナの方は最初から最後まで全く巻きません。

ハナイバナとキュウリグサの花序の比較



ハナイバナの花言葉
小さな親切


……という文言を聞くと、脊髄反射的に「大きなお世話」という言葉を繋げたくなってしまう(笑)。


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 この花なんだ【ワスレナグサ/キュウリグサ】

【2011/04/13 22:05】 | すわさき・その他
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タチイヌノフグリ

立犬陰嚢[タチイヌノフグリ] Veronica arvensis

ゴマノハグサ科クワガタソウ属の越年草。春から初夏にかけて咲きます。
アフリカ~ユーラシア原産の帰化植物で、日本には類縁種のオオイヌノフグリと同時期、明治年間に渡ってきたと言われています。

草の海に散らばる青い星のように目立つオオイヌノフグリに対し、タチイヌノフグリは非常に地味で、草むらをよほど注視していないと気付けません。
花の直径は、僅か3、4mm程度。しかも、日照の強い朝から昼ごろにしか全開では咲かず、後は閉じかけた状態なのですから、目立たないにもほどがある。

タチイヌノフグリとオオイヌノフグリの花の比較


↓下の写真、ツクシの足元に小さな青い花があるのが判るでしょうか。そのくらいの大きさです。

つくしとタチイヌノフグリ


タチイヌノフグリ・全体
咲き始めの時期(四月頭頃)は上の写真のように草丈が低いですが、育つと15~50cmくらいにもなり、茎を立ち上がらせます。

オオイヌノフグリが茎を倒して横這いしていくのに対し、このように立ちあがって咲くので、「立ち」と名前に付けられました。

オオイヌノフグリと同じく、ちょっとした衝撃で花が丸ごとポロッと落ちてしまいます。


小さな花弁は、他のイヌノフグリの近似種に比べて尖った感じです。
また、オオイヌノフグリやフラサバソウよりも濃い瑠璃色に見えます。

花の周囲を互生して取り囲む葉も、花弁と同じくツンツン尖っています。
(ただし、茎の下の方の葉は対生し、オオイヌノフグリに似た丸い形をしています。)

英名が「Corn speedwell(角クワガタ草)」なんですが、やっぱり、全体に角のように尖った感じがこの草の特徴ですよね。

実の形はオオイヌノフグリより更に扁平で、二つ並んだ形はハートマークのように見えて愛らしいです。

タチイヌノフグリの実



タチイヌノフグリの花言葉
信頼、女性の誠実、清浄


実は、オオイヌノフグリのそれと同じです。
要するに「貞淑な女性」のイメージのようで、オオイヌノフグリと結び付けられているキリスト教の老聖女ベロニカが原像なんでしょう。




次に、タチイヌノフグリに似た花を紹介。

フラサバソウ

フラサバ草[フラサバソウ] Veronica hederaefolia
別名:蔦葉犬陰嚢[ツタノハイヌノフグリ]

ゴマノハグサ科クワガタソウ属の越年草。花期はタチイヌノフグリと同じ。
アフリカ~ユーラシア原産の帰化植物。

オオイヌノフグリより小型で、タチイヌノフグリより花が大きい。

明治時代(1875)、長崎で採取したこれがヨーロッパのものと同じだと、フランスの植物学者フランシェ氏(Adrien Rene Franchet)とサバチェ氏(Paul Amedee Ludovic Savatier)が共に著した『日本植物誌』にて報告しました。その後ずっと未確認でしたが、1937年、《1911年に田代善太郎が長崎で採集した標本》を植物学者・奥山春季が再発見し、和名をフラサバソウとしました。
この名は、最初の発見者であるフランシェ氏とサバチェ氏の名を繋げて省略したものです。

発見当初は、海外の窓口たる長崎にしか生えていなかったようですが、第二次大戦後には日本全国で見られるようになりました。

基本的に、オオイヌノフグリと同じように茎が倒れて横這いしていきます。

フラサバソウ・全体


ただ、環境によっては立ち上がって繁茂していることもあるので注意です。

フラサバソウ


茎を立てて繁茂し、小さな青い花を咲かせている様子は、パッと見てタチイヌノフグリに似ています。

けれども花はタチイヌノフグリより少し大きく、色も薄く、花を囲む葉が尖っていません。
茎の下の方の葉の形もタチイヌノフグリとは違います。
別名の「ツタノハイヌノフグリ」が示すように、ちょっと蔦[ツタ]みたいな形の葉ですよね。

英名が「Ivy-leaved speedwell」ですから、同じ発想なのか、和別名はこの英名を訳したものなのか。

全体的に、タチイヌノフグリよりも目立つ感じです。

フラサバソウ
←フラサバソウの花。一緒に映っている白い花はハコベ。
フラサバソウの花は直径5mm程度。

タチイヌノフグリにもぼんやりと産毛は生えていますが、フラサバソウは「毛むくじゃら」と言っていいほどに剛毛が生えて目だっています。

タチイヌノフグリの花
→タチイヌノフグリの花。

フラサバソウに比べ産毛が薄く、花を囲む葉がツンツンと尖っています。
花弁も尖り気味。
花の直径は3、4mm程度。


なお、フラサバソウの果実の形は、「イヌノフグリ」の名を冠した他の植物たちとは違っています。
イヌノフグリは、二つ並んだ実の形が犬の陰嚢を連想させる事に因んだ名。
しかしフラサバソウは丸い実が一つだけなのです。

フラサバソウの実

実の真ん中に通った一筋の線が、二つの実がくっついて一つになった名残を感じさせはしますが、「フグリ」には見えません。
そうしてみると、別名の「ツタノハイヌノフグリ」は看板に偽りあり?



フラサバソウの花言葉
一見こわもて

毛がもしゃもしゃと生えていることに因むようです。
使いどころが難しそうですね。
「パッと見て怖いけれど、あなたは素敵な人」……と伝えたい時に使うんでしょうか?




関連記事
 この花なんだ【オオイヌノフグリ】

【2011/04/12 12:10】 | すわさき・その他
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ガガイモ

鏡芋/蘿藦/羅摩/芄蘭[ガガイモ] Metaplexis japonica
別名:鏡草[カガミグサ]、乳草[チチクサ/チクサ]、草パンヤ[クサパンヤ]、ハンシヤ、ジガイモ、カガライ、ガガラビ、ガンガラビ、ゴガラビ、トンボウノチ、ハトカミ、タトウガミ、カトリグサ、カラスノモチ、ムジナノチ、シコヘイ、イカシコ、ゴマンザイ、ゴマザイ、ゴマシロ、ゴマジヨ、ゴマシロカイ、カラスバナ、雀の枕[スズメノマクラ]、ゴウガメ、ゴウガミ、コウガモ、ゴガミ、ゴガミヅル、ドウガメヅル

ガガイモ科ガガイモ属の蔓性多年草。日本、朝鮮半島、中国、ロシアに分布。
夏の終わりに濃桃色の花を咲かせます。直径は1cmほどで星型。花弁には白い毛が生えて毛羽立ったフェルトのようです。

ガガイモ


茎や葉を傷つけると白い乳汁が出ます。別名の「乳草」はこれに由来するのでしょう。

名前に「イモ」と入っています。全国各地で様々な名で呼ばれていましたが、中国・四国地方でガカイモ、カガライモ、カゴイモなどと呼ばれていたのが正式名として定着したようです。一説に「カガミイモ」の転訛だとか。と言うのも、この草の日本古名は「加々美[カガミ]」だったからです。

けれどこの草に芋は出来ません。細長いながら地下茎は育ちますが毒があって食べられません。なのに「イモ」…? どこから出てきたのでしょうか。

いやいや。実は道央のアイヌは、彼らがエプンカウと呼ぶこの草の地下茎を、煮て食べていたそうです。多食しなければ大丈夫らしい。
もしかすると、そうした食習慣がかつては本土の一部にもあって、根を食べることのできる植物ということから「イモ」の名が付いたのでしょうか。

現在、「熟して茶色くなった実の様子がサツマイモに似ているから、イモと付いた」という説が流布しているようです。
個人的には、葉の形や蔓性である辺りが少し山芋に似ているので、その関係なのかもと思いますが、山芋説はまるで人気がないのでした。

ともあれ、世間的には芋に似ていることになっている実。長さ10cmほどのツンと尖った紡錘型。軽くて硬くて、ボコボコと疣[いぼ]があります。

ガガイモの実


ガガイモの実

実の皮は薄く硬く、青いうちなら剥ぎ取ることが出来ます。中には白い繊維と無数の種がギチギチに詰まっていて硬いです。が、茹でたりてんぷらにしたりみそ汁の具にして美味しく食べることが出来るそうです。しかしこれも、多食すると中毒することもあるとか。新芽や莢だけなら心配ないようですが、種子も食べる場合は茹でてよく水にさらした方がいいらしい。

実が熟すと皮が茶色に干からびて縦に裂け、中から、白く長い絹糸のような繊維をサラサラとなびかせた無数の種が露出します。この繊維を種髪と呼びます。種髪はやがてフワフワに広がり、柄のないタンポポの綿毛のように、種を一粒ずつ連れて飛散していくのでした。

種髪は綿の代用として枕や針刺しの詰めものに使われたそうで、それに因んで「草パンヤ」という別名があります。(パンヤとは詰め物用の植物性繊維のこと。)
また、種髪は印肉(印鑑用の朱を染み込ませる繊維。朱肉)としても用いられました。



ガガイモは日本神話に登場する植物として有名です。
古事記

故[かれ]、この大國主神[オオクニヌシのカミ]、出雲[イズモ]の御大之御前[ミホのミサキ]に坐[いま]す時に、波の穂より、天之羅摩船[アメのカガミのフネ]に乗りて、鵝の皮を内剥[ウツハギ]に剥ぎて衣服[キモノ]にして、帰[よ]り来る神あり

さて、大國主神[オオクニヌシのカミ]が出雲[イズモ]の美保の岬にいました時、波の上で天之羅摩船[アメのカガミのフネ]に乗って、蛾[が]の皮を丸剥きにした服(と一般に解釈されるが、原典の字義通りなら羽衣)を着て、流れ寄って来る神がいました。

出雲に流れ寄った神、少名毘古那[スクナビコナ]が乗っていた「天之羅摩船[アメのカガミのフネ]」。「羅摩/蘿藦[ラバ/ラマ/ルマ]」はガガイモの中国名で、ここでは和名「カガミ」の読みが振られています。
スクナビコナがカガミの船に乗って来た。そうとしか書いてないわけですが、多くの学者たちの千年の研究の結果、ガガイモの実を割って作った船に乗ってやって来たのだと、今では殆ど確定的に解釈されているようです。

※もっとも、異説を唱える研究者も絶えないようです。発音通り「鏡の船」と解釈して、鏡のように光り輝く船→太陽の船と解釈したり、蛇の古名「カガ」と関連付けて「蛇の船」とみなし、オオクニヌシもまた蛇神と同一視されること、オオクニヌシとスクナビコナは同一の神という解釈があることと関連付けたり。

確かにガガイモの実は船のような形に見えますよね。一寸法師系の小人神が乗るに相応しい。熟して裂けた実からはみ出る白い種髪も、白髪の小人が舟に乗り込んでいる様を連想させるかもしれません。

ただ、世界中の似たような伝承では瓜かヒョウタンの中に入ってドンブラコと流れ来るのですから、もしスクナビコナがガガイモの実に乗ってきたのなら、裂けた実の船に乗っていたのではなく、閉じた実の中に入っていたのだという方が、伝承の様式美にはのっとっている気もします。

日本書紀

初め大己貴[オオアナムチのカミ]、國 平[たいら]げ、行きて出雲國[イズモのクニ]の五十狹狹之小汀[イササのオハマ]に到りて、且[まさ]に飮食[みおし]せんとす。是の時に、海の上に忽[たちまち]に人の聲[こえ]有り。乃[すなわ]ち驚きて之[これ]を求むるに、都[ふつ]に見ゆる所無し。頃時[しばらく]して、一箇[ひとり]の小男[おぐな]有り。白蘞[かがみ]の皮を以ちて舟と爲し、鷦鷯[さざき]の羽を以ちて衣と爲し、潮水[うしお]の隨[まにま]に以ちて浮き到る

初め、大己貴神[オオアナムチのカミ](大國主のこと)が国を平定しようとしていた頃のこと。出雲の国の稲佐[いなさ]の小浜に行って食事を摂ろうとした時、海の上から唐突に人の声がしました。それで驚いて捜したものの、まるで姿が見えません。しばらくすると一人の小童が現れました。カガミの皮を舟にし、小鳥の羽を衣にし、潮任せでもって浮かび来ました。


こちらでは「白蘞[ハクレン/ビャクレン]」の字に「カガミ」の読みが振られています。
これは「ヤマカガミ」のことだと平安時代の辞書『和名類聚抄』に記載されています。昔は「カガミグサ」と呼ばれる植物が複数あって、それをヤマカガミだのヒメカガミだのノカガミだの、少しずつ違う名で呼んで区別しようとしたようですが…。ともあれ、『古事記』を参考にして、『日本書紀』の「白蘞」こと「ヤマカガミ」はガガイモのことだ、と解釈する向きがあります。

一方で、「白蘞」はガガイモのことではなく、その中国名を持つ植物、ブドウ科ノブドウ属のカガミグサ Ampelopsis japonica だという説もあります。つまり『日本書紀』のスクナビコナは、白蘞の根の皮で作った舟に乗ってやって来たというのですね。白蘞の根は巨大な塊根で、食用でもあり漢方薬にもされるものですから。
根の皮で舟を……。ちょっとばかし無理がある感じもします。ついでに言えば、この草が中国から渡来したのは江戸時代で、古代日本には存在しませんでした。


それにしても、どうしてガガイモの日本古名は「カガミ」なのでしょうか。

「カガ」という言葉には、「輝[かが]」や「赫[かく]」のような、赤々と、或いはキラキラと輝くモノの意味があります。「鏡[かがみ]」の語源もそこにあるとされます。
よって、ガガイモの何かが鏡のように光っていたのだという系統の説が人気です。

例えば、葉が鏡のようにつやつや光るから。(そうでもない)
或いは、熟した実の中に詰まった種髪、またはそれらが飛び去った後の実の中が鏡のように光るから。つまりカガミとは「輝実」の意味であると。(うーん。確かに判り易い特徴かもですね。)

ちょっと珍しい説としては、種髪で鏡を磨いたから、というのも。これはカガミグサの別名を持つカタバミの由来と混同してる感じですね。

次に、「屈[かが]む」という言葉に因むと言う説。
太い地下茎が屈むような低い位置にあるから。(どんな植物の根も低い位置にあるけど…)

なお、各地方の方言別名の中にゴウガメ、ゴウガミ、コウガモ、ゴガミ、ゴガミヅル、ドウガメヅル等とあるのは胴亀、泥亀のことで、これはスッポンの別名であり、葉の形がスッポンの甲羅に似ているからだ、という説もあります。葉脈の模様が亀甲模様に似ているとか。
でもスッポンの甲羅は丸くて亀甲模様もないので、辻褄が合いませんよね。

「カガミ」が訛って「コガミ/ゴガミ」となり、更に訛った「ゴガメ」の発音が泥亀(スッポン)を連想させたことから、葉が甲羅に似ていると言う辻褄合わせの由来説が後付けされたのかもしれません。


薬草として利用する場合は、茎や葉から出る乳汁を疣落としにします。虫刺されに効くとも。
種髪は血止めに使います。

また、初秋に葉と実を採取して日干しします。
種子を干したものを羅摩子[らまし]と呼び、滋養強壮剤として服用します。


ガガイモの花言葉
清らかな祈り
味わい深い




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 この花なんだ【カタバミ/ムラサキカタバミ】

【2011/01/22 20:05】 | すわさき・その他
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柿の花

[カキ] Diospyros kaki

カキノキ科カキノキ属の落葉高木。
中国の長江流域が故郷で、日本には古代に大陸から伝播したのだろうと言われています。
アメリカやヨーロッパには日本から伝播したので、学名に「kaki」と入っています。
なお、属名「Diospyros[ディオスピロス]」はギリシア語で「神の食べ物」の意味。

柿の花
初夏に、指の先くらいの大きさの、淡く緑色がかった花を咲かせます。プラスチック細工のように小さくて硬く厚ぼったく、可愛らしいです。散る時はそのままボトボトと落ちます。


ご存知のように、秋に夕日色に熟す大きな実が人気です。
山には小さな実がガラガラ鈴生りになるガラ柿が生えていますが、三倍も大きなつやつやの実が生る栽培種の柿が、今は世を席巻しています。

熟すと自然に渋が抜けて程よい硬さの時に生食できる甘柿と、ドロドロに熟すまでは渋味の残り続ける渋柿があります。
実は甘柿は渋柿の突然変異で、日本では1214年に神奈川県の王禅寺で発見されたものが初と言われ、それまでは熟柿になるのを待つか、渋抜き加工して食べるのが当たり前でした。

渋を抜く方法は色々ありますが、昔から人気があるのは、干して半生のドライフルーツにする方法。保存もきいて甘くなります。砂糖が希少だった時代、甘い干し柿はおやつとして高い人気を誇っていました。

柿の実


木は硬いですが割れ易いので建材には使われず、家具や細工物に用いられます。

葉は干して煎じて、柿の葉茶として。ビタミンCを多く含み、止血作用があるだとか血圧を下げると言われています。
葉には殺菌効果もあり、柿の葉寿司に用いられます。

なお、実の《へた》の部分を煎じて飲むと、しゃっくりや咳が止まると言われました。

実を潰して寝かせて作る柿渋は、防水効果のある塗料として用いられます。これを塗った紙を渋紙と呼んで、和傘や団扇に用いていました。


「カキ」という名の語源には諸説ありますが、「アカキ」が訛ったのではと言われているようです。実が赤く熟すから「赤き」「赤木」だとか、紅葉するから「赤黄」だとか、解釈は定まっていません。


カキの花言葉
自然美
恵み

【2011/01/18 21:42】 | すわさき・その他
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